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第三十二話 あるささやかな出会いです。
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というやつを。実はな、俺の部下の一人がつい先だって前線の小競り合いで戦死してな、勤勉すぎるのが玉に瑕だが、得難い奴だった」
一瞬キャゼルヌが当時のことを追憶するかのように視線を宙にさまよわせた。
「そして、その部下の忘れ形見が一人孤児になってしまっている。祖父母はいるんだが、何でもその子の母親の家系が帝国からの貴族亡命者だそうでな。対する父親の方の家系はアーレ・ハイネセンを支えた家柄の子孫なのだそうだ。そういうわけで帝国貴族の血を引く孫を引き取るのを嫌っているらしい」
「つまりは、自由惑星同盟の『名家・貴族』家というわけですか。皮肉なものですね。帝国では貴族だった家柄が、この自由惑星同盟では『平民』の家に蔑視されてしまっているなんて」
「そう皮肉を言うな。貴族と言ってもそれほど身分のある家柄ではないし、もともと当人たちの自由恋愛によるものだからな。ま、父親の方の家は最後まで反対を貫いて、しまいには一族絶縁なんて言われたらしい。そういうところに息子を返すのは、情操教育上よくないからな」
ヤンはキャゼルヌの言わんとしていることを知って暗澹とした気分になった。
「さっき先輩は、私のことを『ごみ溜め行き』と言いましたが、いいんですか?そういう『情操教育上よくない人間。』を里親にするなんて」
「なに、お前さんは『通常の家庭生活』では欠陥があるかもしれないが、お前さんの人となりはよく知っているつもりだ。決して無抵抗な子供を虐待するような人間じゃない。俺が保証する」
キャゼルヌは力強くうなずいて見せると、紅茶を飲んだ。別にそこを力強くうなずいてもらわんでもいいのに、と思うヤン。
「先輩に保証してもらっても、私の気がすすみません」
「そういうな、まぁ、お前さんも物は試しだと思って引き受けてみろ。気に入らなかったらすぐに連絡すればいい。こちらで別の引き取り手を考える。だが、それは会ってみてからにしてくれ」
ふう、とヤンはと息を吐いた。
「わかりました。でも、合いそうになかったらすぐに連絡しますからね」
1週間後、ヤン家の官舎の訪問ベルが元気よく音を立ててなった。玄関の前にパリッとしたスーツを着て、猫を抱えて立った少年が、パジャマ姿で歯ブラシを加えたままの寝ぼけ顔のヤンに元気良くあいさつした。
「僕、ユリアン・ミンツと言います。あの、ヤン大佐でいらっしゃいますか?」
まだ中佐なんだが、とヤンは言いたかったが、面倒くさかったので、そのままにしておいた。ヤンはうんうんと二度うなずき、歯ブラシが口に入っているので、身振りで家の中に入るように促すと、洗面台に足を引きずるようにして行ってしまった。
肩透かしを食ったような顔をしていたユリアン少年が一歩部屋の中に入ると、そこには彼の短い生涯でも未だ
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