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忘れ形見の孫娘たち
6.お別れをしに来たんじゃない
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しないで!」
「私も五航戦なんかと一緒にされると頭にきます」
「あは、アハハハハ……」
「ちょっとかずゆき……余計なこと言って刺激しないでよ……」
「いや、正直すまん……」
「ぷーい……」
「つーん……」

 刺々しい空気が肌に刺さる感触を感じながら、僕は三人を家に上げ、億の和室に案内してさしあげる。しかしすごいなこの二人。

「ぷーい……」
「つーん……」

 お互いがお互いを自分の視界に入れたくないのか、二人とも目線が外側を向いてて、前を向かずに僕についてきている。前見てないのにまっすぐ歩いてるってすごいぞ。

「……着きましたよ。こちらです」
「「……!」」

 和室の入り口のふすまを開ける。その途端、加賀さんと瑞鶴さんの顔色が変わった。さっきまでは互いに敵対心むき出しだったのに、その敵対心が急激にこの場から消え失せたのが僕にも分かった。

「ひこざえもん提督……」
「ホントだったんだ……」
「本当に……逝ったのね……」
「提督さん……冗談だよね……?」

 瑞鶴さんがフラフラと和室に入り、爺様の遺影に近づいていった。一方の加賀さんはその場から動かず、だけど右手を力いっぱい握りしめて、悲しみをがまんしているように僕には見えた。

「和之さん」
「はい」
「ひこざえもん提督に……お線香をあげてもいいですか?」
「はい」

 弓道着を着ているせいなのか……それとも背筋が伸びた綺麗な姿勢をしているためか……加賀さんは美しい立ち居振る舞いで和室に入り、仏壇の前に座って爺様に線香をあげていた。線香の香りと煙が、僕と鈴谷にも届いた。

「五航戦」
「うう……提督さん……」
「あなたもお線香をあげなさい」
「……うん」

 加賀さんに静かにそう促され、瑞鶴さんは目に涙をいっぱい浮かべながら加賀さんの隣りに座り、わなわなと震えながら線香を上げた。僕には、瑞鶴さんが大声を上げてしまいそうになるのをガマンしているように見えた。

「ねえねえ」

 殺気までの喧騒と痛い空気はどこへやら……一辺して静かになった加賀さんと瑞鶴さんを見守る僕に、鈴谷がこそこそと話しかけてきた。いつぞやのようにパーソナルスペースが近い近い……でもあんま気にならなくなってきたな。

「かずゆき……そろそろ私たち、外に出よっか」
「そうだな。キチンと挨拶させて……」
「鈴谷、そこにいなさい。和之さんも」

 僕と鈴谷が気を利かせて部屋から出て行こうとするのを、加賀さんが静かな声で止めた。本当なら、お世話になった人との別れは誰にも邪魔されたくないはずなのに……だから僕と鈴谷は部屋から出て行こうと思ったのに。

「でも僕らがいると爺様とお別れがキチンと出来ないでしょ?」
「いいんです。五航戦はともかく、
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