7部分:第七章
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第七章
戸惑いながらもそれでもだ。淳司に対してだ。
小さくだ。こくりと頷いて答えたのである。
「いいわ。それじゃあね」
「うん、有り難う」
「少しだけなのね」
「そう、少しだから」
こう言いながらだ。そのうえでだった。
淳司は懐からあるものを出してきた。それはというと。
青紫のビロードの小箱だった。そしてそれを開けると。
香菜の誕生石の宝石がある指輪だった。その指輪を彼女に見せてだ。
淳司はだ。こう彼女に言ったのである。
「これだけれど」
「指輪、つまりは」
「うん、自分から言いたくてね」
「それでこの日にだったのね」
「そうなんだ。御馳走してね」
そしてだ。それからだったというのだ。
「この指輪を最後にね」
「私に。それじゃあ」
「シェフとしてもまだ未熟だし。まだまだだけれど」
それでもだというのだった。
「香菜ちゃんが好きだから。ずっと一緒にいたいから」
「だから私にその指輪を」
「うん、どうかな」
香菜を見つつだ。一途な顔で言うのだった。
「その。この指輪は」
「ローエングリン観たじゃない」
香菜は淳司の問いにだ。すぐには答えなかった。
こう一呼吸置いてからだ。彼に話したのである。
「あのオペラでも主人公達は結婚するけれど」
「そうだね。けれど」
「幸せにはなれなかったわね」
「うん、エルザが夫の名前、問うのを禁じられたその問いを聞いてしまってね」
魔女オルトルートに唆されてだ。そうしたのである。
「そうしたね」
「それでもピーチメルバは」
「そうだよ。結婚の幸せを表現したものでもあるんだ」
「それならね」
ならばこそだとだ。答える香菜だった。
「オペラとは違った。幸せな結婚生活をね」
「それをなんだね」
「私も過ごしたいから」
それ故にだとだ。香菜は言葉を慎重に選びながら述べていく。
「淳司君と」
「僕となんだ」
「そう、だからね」
顔が微笑みになった。その微笑と共にだ。
淳司の顔を見て。そして答えたのである。
「その指輪、喜んでね」
「受け取ってくれるんだ」
「ずっと一緒にいましょう」
満面の笑顔になった。その笑顔でだ。
淳司の手から指輪を受け取り。そして言ったのである。
「これからもね」
「うん、これからもね」
「こうして二人土曜に一緒になれることは滅多にないけれど」
普通シェフは土曜にこそ忙しい。店が営業していて休日に客が多く入るからだ。彼はこの日有給休暇だったのだ。それを考えての誘いでもあったのだ。
「それでもね」
「うん、いつも一緒にね」
「いましょう、これからも」
「うん、ずっとね」
こう言い合いだ。香菜は左手の薬指に早速指輪を入れた。そしてだ。
香菜はあらためて
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