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銀河英雄伝説〜新たなる潮流(エーリッヒ・ヴァレンシュタイン伝)
第百七話 狂える獣
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、貴官は帝国軍と戦うのが嫌なのかね?」

総司令官が顔面を歪めながら問いかけてきた。口調には一片の好意も無い。無力感が私の心を占領する。総司令官に信頼されない総参謀長など何の意味があるのだろう。

「そうでは有りません、ただ……」
「だったら黙っていたまえ、消極的な意見など私は聞きたくない」
「……」

ドーソン総司令官は不機嫌そうな声で私を拒絶すると顔を私から背けた。その様子をフォーク准将が嫌な笑いを浮かべて見ている。私は屈辱よりも娘を助けてやれないことへの罪悪感、死んだ妻に対するすまなさに苛まされていた。

フレデリカ、すまない、お前を助ける事が出来ない。フランシア、頼む、私達の娘を守ってくれ、必ず生きて私の元に戻してくれ。


帝国暦 487年8月 6日  オーディン ヘルマン・フォン・リューネブルク


「今の所は何も問題は無いな、リューネブルク中将」
「そうですな」
「何時までこの警備が続くのやら」

モルト中将はそう呟くと溜息をついた。ローエングラム伯が出兵し、宇宙艦隊の正規艦隊が全てオーディンを離れた。この間オーディンの治安は憲兵隊と装甲擲弾兵第二十一師団に委ねられた。

今、俺とモルト中将はTV電話でお互いの状況を報告している。全く問題は無い。近衛師団、装甲擲弾兵も早々にこちらに協力を申し出てきた。帝都オーディンはこれまでに無いほど完全に守られていると言って良い。

近衛兵総監ラムスドルフ上級大将、装甲擲弾兵総監オフレッサー上級大将もあの黒真珠の間に居た。皇帝と三人の重臣達の狂態を目の当たりにしたのだ。そのことが彼らを従順にさせている。

「モルト中将、遅くとも今月中には終わりますよ。まあ、司令長官が勝つのを待ちましょう」
「そうだな。待つしかないな」

今現在、憲兵隊を率いているのはモルト中将だ。クラーマー憲兵総監が更迭された後、憲兵総監はエーレンベルク元帥が兼任している。万一の場合にはヴァレンシュタイン司令長官が憲兵副総監を継ぐはずだった。

しかし司令長官が出兵した事で、モルト中将が代わりに憲兵隊を指揮している。切れるタイプではないが、誠実で信頼の置ける人物だ。この職には打って付けだろう。ただ、臨時の代理という事で本人はやりづらいのかもしれない。

「大丈夫ですよ、モルト中将。司令長官は必ず勝ちます。今の司令長官には大神オーディンも逃げますよ」
「大神オーディンも逃げるか……。本当にそうであって欲しいよ」

俺は嘘を言っているつもりは無い。俺が大神オーディンなら今の司令長官と戦おうとは思わない。俺は本気のヴァレンシュタインの恐ろしさを良く知っている。

ヴァンフリートの会戦で出会ってから二年になるが、ずっと見て来て分った事がある。ヴァレンシュタインは有能ではある
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