1.爺様、逝去
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「斎藤! 今実家からじいさん亡くなったって電話があったぞ!!」
僕が書いたコードのレビューを会議室で行っている時、ドバンとドアが開いて課長が血相変えてこんなことを僕に向かって怒鳴ってきた。
「は? なんです課長?」
「いやだから! お前のじいさんが!! 亡くなったって!!」
「はぁ……?」
人間不思議なもので、突拍子もない事柄を突然言われると思考が停止する。課長の口から放たれた『爺様逝去』の言葉の意味を僕の脳が正しく理解するまで、若干のタイムラグが必要だった。
「……あ、あのー……今レビューの最中なんで……」
「レビューなんてしてる場合か!! 帰れ今すぐ!!」
「いやでもレビュー……」
「レビューなんかいつでも出来るだろうがバカタレ!! じいさんにキチンとお別れ言ってこい!!」
「お別れ……爺様……うぉあ?! 爺様が?!! 馬鹿なッ?!!」
ここでやっと僕の脳は『爺様が亡くなった』という言葉の意味を正しく理解した。そしてその途端に妙な不安感に襲われて身体が震えだした。
「あわわわわわ課長どうしましょう爺様が死ぬだなんてあばばばばばば」
「うろたえてる暇があったらさっさと帰るんだよッ!! ほらいけッ!!!」
あまりにショックで頭の回転が完全にストップした僕を、課長は強引に会議室から引っ張りだして会社から追い出した。別れ際に『電車賃の足しにしろ!!』と福沢諭吉を一人くれた。その諭吉は、一時間後に野口英世へと変貌していた。
爺様は今年で90になるというのに、殺しても死なないほどに元気が有り余っている人だった。大人気なくてエネルギッシュで色黒。好奇心旺盛で面白そうなことには何でも手を出す。酒豪でチェーンスモーカー。好物は肉全般と貝類。年寄りのくせに行動が素早くて自信過剰。『俺があと50歳若ければ、ジョブズは俺にひれ伏していた』という意味不明な口癖を持つ、自慢でも何でもない爺様だった。
――おい和之。お前にできて爺様に出来んのは悔しいからパソコン始めたぞ。
僕が就職してプログラマーになった頃に突然電話で僕にそう宣言した爺様は、その後メキメキとパソコンスキルを身に着けていったそうな。最近では一日中パソコンでブラウザゲームを楽しんでいたらしい。時々父ちゃんが電話でそうぼやいていた。
『なんか“和之とラインしたいからスマホにしたい。アイフォンはなんかスカしてるからアンドロイドがいい”って言ってたけど』
『iPhoneでもAndroidでもどっちでもいいじゃん……なんなのさその無駄なこだわりは……つーかそれはiPhone使ってる僕への挑戦状か?』
『ラインって何だよ。父ちゃんもスマホだけど爺様が何を言ってるのかさっぱり分からん……』
『さすがにスマホ使ってる父ちゃんはLINEは知
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