暁 〜小説投稿サイト〜
世界最年少のプロゲーマーが女性の世界に
10話
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。2人の戦いは確かに細かい部分で稚拙さや未熟さの残るものだったが、そんなものは関係ないと言わんばかりの戦い。剥き出しの本能と全てを焼き焦がすほどの情熱に満ちた闘争と言い換えても良かった。

 2人の戦いは常人では決して届くことのないものだと千冬は感じた。

 一夏は生まれ持った戦いに置ける危険への嗅覚、天性の才能、土壇場で発揮され人知を嘲笑うセンス。

 鬼一は過去の数え切れないほどの死闘から生み出た、莫大な経験と常軌を逸した集中力、そしてそこから生み出される不可能を可能にする力。

 対の存在とも言えるそんな2人だが共通していることがある。2人は凡人たちを一瞬で置き去り、生半可な努力や才能を踏み潰せるということだ。

 身体を起こした一夏は鬼一とのやりとりを自分の姉に試合前の出来事をゆっくりと話し出す。

 ―――鬼一の人を傷つける戦いしかできないことを。

 ―――鬼一の考え、守るために何かを傷つけることが間違っていることを

 ―――犠牲の上にしか守れない、守ることに自分は納得できないことを。

 ―――そんな戦いを鬼一はこれからも繰り返すことを。

 ―――セシリア戦の時は姉の名を守るつもりだったが、鬼一の戦いを見て姉を守ることを決意したことを。

 ―――自分の考えは安全圏にいる人間の考えだということを。

 その言葉を聞き終え、千冬は目を閉じ顎に手を添えて熟考する。一夏の言葉は主観による一方的な見識だと千冬は思う。その一方的な考えは危ういとも思った。

 今まで弟を守るためにずっと離れていたことが原因で、このような視野の狭さを生み出しているのならそれを正さなければならない。

 唯一の姉、家族として。数多くの人間を見てきた1人の年長者として。

 実際に考えていた時間は2、3分ほどしかなかったが、一夏には非常に長く感じられた。

 目を開き、顎に添えていた手は腰に当てられる。伝えなければならないことを纏めた千冬は静かに、幼子をあやすような柔らかい声色で一夏に伝える。

「……一夏、人の主義や主張には正解も間違いもないんだ」

 その言葉に声をあげようとした一夏だったが、千冬の手で制される。その表情は納得できないと言わんばかりだ。

「肯定することも、否定することも出来ない。一つの主義主張の裏には必ず、等質の重さを持った主義主張しかないんだ一夏」

 根本的な一夏の考えを正す。何が正しいのか、何が間違っているのか、そういうことではないと伝えた。

「月夜だけではない、私も含めて誰もが一度はそれを信じるんだ。お前の言う誰も傷つけずに守ることを、救うことが出来るって、な」

 千冬は何度もそれを夢見たことがある。最後に見たのはいつだったか。激動の日々に身を投げ出して
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