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銀河英雄伝説〜新たなる潮流(エーリッヒ・ヴァレンシュタイン伝)
第百五話 掌
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めた。
皇帝の表情に僅かに面白がっているような色が見えたのは気のせいではあるまい。
「昨日、ローエングラム伯から報告があった」
ざわめきと共に視線が俺に集まる。決して好意的とは言えない視線だ。
「臣は反乱は鎮圧されておらず、鎮圧軍は敗退したと聞いています」
シュターデンはそう言うと俺を睨み付けた。
「ローエングラム伯、陛下に偽りを申されるか!」
「妙な事を言われる。小官を侮辱なされるのかな、シュターデン大将」
「黙れ! 鎮圧軍はアルテミスの首飾りの前になすすべも無く敗退したと聞いている。陛下を愚弄するか!」
勝ち誇ったように言葉を吐き出すシュターデンが何処か可笑しかった。思わず笑いが漏れた。それを聞いたシュターデンが更に激昂する。
「何が可笑しい!」
「卿が可笑しいのだ。シュターデン大将」
「な、なんだと」
「鎮圧軍が敗れたと言う証拠が何処にある? 誰がそのような事を言ったのだ?」
「証拠? 誰がだと、それは……」
答えられんだろう、シュターデン。お前はブルクハウゼンにその話を聞いた。ブルクハウゼンとマクシミリアンが繋がっているのも気づいているだろう。だがブルクハウゼンの名は出せまい。
「答えられぬか。証拠も無しにつまらぬ噂で私を侮辱するか! シュターデン」
「……」
シュターデンは悔しげな表情で俺を睨むが、滑稽なだけだ。
「卿に教えた人物を当てて見せよう、ブルクハウゼン侯爵、前へ出られよ」
名を呼ばれたブルクハウゼン侯爵が周囲の視線を浴びおどおどしている。
「出られよ、ブルクハウゼン侯爵」
再度の俺の声に渋々といった感じでブルクハウゼンは前に出た。
「ブルクハウゼン侯、妙な噂を流してもらっては困りますな」
「何の話だ」
「鎮圧軍が敗れたなどと言うデマを流されては困ると言っています」
「……」
「反逆者、マクシミリアン・フォン・カストロプから聞きましたか?」
「何の話だ、私はマクシミリアンとは話などしていない。卿こそ、陛下に対し虚偽を言うのは許されんぞ!」
痛いところを突かれたのだろう。むきになって言い返してきた。
「ほう、マクシミリアンとは話していませんか?」
「もちろんだ。誰が言ったのかは知らぬが迷惑だ!」
俺は密かに持っていた音声再生機のスイッチを入れた。
「ブルクハウゼン侯、鎮圧軍はアルテミスの首飾りの前になすすべも無く敗れたぞ」
「そうか、敗れたか」
「他愛ないものだ。あのような奴ら恐ろしくもなんとも無いわ」
「これでリヒテンラーデ侯を揺さぶる事が出来る。ヴァレンシュタインが敗れたとなれば侯の力も弱まるだろう。いま少しの辛抱だ。もう直ぐ侯を失脚させ私が国務尚書になる。そうすればマクシミリアン、卿の反乱も取り消されよう…
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