暁 〜小説投稿サイト〜
火影の夜窓(ほかげのやそう)
第四章 火影の夜窓
[1/3]

[8]前話 [1] 最後
祐未は携帯を横の椅子へ放り、肩を落とした。
不躾に割り込んできた迷惑メールのお陰で、誕生会のムードが台無しだ。
ところが今度は、火薬銃のような音が鳴り響いた。
ぴゅーっと派手な音をたてながら火種が上昇し、
それが上空でぱーんと()ぜると、周辺一帯にこだまする。
祭りの興奮冷めやらぬ近所の子供らが、庭でロケット花火を始めたようだ。
祐未は窓辺に立つと障子を閉め、騒がしい夜窓(やそう)を塞いだ。
宿の廊下もにわかに騒がしくなってきた。
はしゃぐ幼子を諌める母親の声。
祭りから戻ってきた泊まり客が、家族揃って貸切風呂へいくのだろう。
祐未は諦めの表情で陽介の写真を見やる。
(ごめんね陽介。今夜は二人きりで静かにあなたの誕生日を祝うつもりだったのに…)
祐未は深くため息をつき、ケーキのロウソクを一本ずつ抜き取る。
スポンジに貼られたフィルムを片手で不細工に剥がすと、
台紙ごと口もとへ運び、無造作にかじる。
歯にしみる強烈な甘さに打ちのめされ、
祐未は、隣の椅子に横たう携帯を忌まわしげに睨んだ。
だが、唇のクリームを舐めながら急に侘しさがこみ上げ、涙に目が霞む。

祐未は食べかけのケーキを皿に戻し、携帯を鷲掴みする。
メニュー画面の削除ボタンを押そうとして、ふと指が止まる。
念のため、メールアドレスをもう一度見てみた。
数字とアルファベットがランダムにならぶアカウント。
何度見ても、やはり見覚えはなかった。
だが、心の奥で何かが引っかかる。
本文に貼られた青いアドレスを見つめ、
首をかしげつつも、思い切ってタップする。
ブラウザが立ち上がり、やがて空白の画面にサイトが現れた。
それは見たこともない動画サイトであった。
動画プレイヤーの静止画面を見て、祐未はドキッとした。
「え!? これ…、私じゃないの!」
表紙に貼られていたのは、なんと祐未の写真であった。
タイトル欄は空白。
だが説明欄に目を落とすと『祐未へ』、とある。
「まさか…」
祐未は急いで再生ボタンを押した。
画面が暗転し、オルゴールの可憐な音楽が流れ出す。
すると、おもむろに写真のスライドショーが始まった。
祐未の写真が浮かんでは消え、また浮かんでは消えていく。
それは陽介が祐未を写したスナップ写真であった。
(そういえば、しょっちゅう、携帯カメラを向けられていた気がする。)
写真を見ながら、その時の様子が目に浮かんだ。
無邪気に笑う祐未、気取って笑う祐未、
ハンバーガーに大口でかぶりつく祐未…
中には、知らぬ間に撮られた横顔や寝顔、
寄り目でひょうきんな顔をする写真もあった。
どれも屈託のない、人生の春を謳歌する祐未の笑顔であった。
祐未は溢れ出る涙を拭おうともせず画面に見入っていた。

不意にオルゴール
[8]前話 [1] 最後


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ