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火影の夜窓(ほかげのやそう)
第三章 再会街道
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かのように、大輪の花火がずどんと咲いて、
平成殿の背景が一気に華やいだ。
祐未はしばし、華麗な夜空に見とれていたが、
ふと、誕生祝いのことが頭をよぎった。
慌てて踵を返し、人並みをかき分けながら鳥居の外へ抜け出すと、
携帯で近くの洋菓子店を探した。
(良かった、まだ開いてるみたい。国道沿いだからすぐわかるわね。)
神社を南下し、交差点を左折。
花火を背にして5分ほど歩くと、大型スーパーが見えてきた。
祐未はスーパーに素早く駆け込むと、
洋菓子店のショーケースをざっと見渡す。
どれも凝っていて美味しそうではあったが、
結局祐未が選んだのは、ありふれたショートケーキであった。
「あのう、ロウソクを三本つけてください。
 それと、ドライアイスも多めでお願いしますね。」
(うん、これでよし。)
ケーキの小箱を手にすると、祐未は颯爽と“再会街道”を歩き出した。

宿の玄関を開けると、今度はすぐさま女将が出てきた。
「あら、もうお戻りで? 花火はご覧になりました?」
「ええ。でも少し疲れたので、
 残りは部屋でゆっくり見たいなぁと思いまして。」
「まあ、それはお疲れでしょう。じゃあ、鍵取ってきますね。」
渡された鍵を持って2階に上がる。
少し手間取りながらもどうにか部屋の鍵を開け、木戸を押す。
軋む音とともに、暗い部屋から花火の閃光がうっすらもれてきた。
中に入ると照明はつけずに、障子を全開にする。
すると、花火がちょうど正面の高さに見えた。
急いでキャリーバックから陽介の写真を取り出すと、
椅子に立てかけ、窓際まで脚をずらした。
祐未も隣に椅子を並べて座ると、光の庭園をとくと鑑賞した。

9時近くになり、いよいよ花火が連発で上がりだした。
花火の音が鳴るたび、宿全体がぶるぶると震えた。
そして、一際大きな一発が打ち上がった。
「わぁ〜、きれぇ〜。」
祐未は最後の大輪を惜しむように見つめた。
ずどーんと尾を引くような音が静まると、花火大会は幕を下ろした。
祐未はため息をもらしながら、宵宮の余韻に浸った。
一瞬の命を精一杯輝かせ、儚く散っていく花火。
今にも、哲学者のような名言が浮かんできそうだった。

祐未は立ち上がると、誕生祝いの準備を始めた。
持参したプラスチックの小皿をテーブルに置き、
そこへショートケーキをそっと座らせる。
皿の奥に写真を立て、祐未は陽介と向き合った。
ロウソクを三本立てるとライターで火を灯し、炎を見つめながら
「ハッピバースデートゥーユー」
祐未が消え入るような声で歌いだした。
「ハッピバースデーディーア陽介〜
 ハッピバースデートゥーユー。
 …お誕生日おめでとぉ〜」
炎を吹き消すと白い煙が立ち上り、蝋の匂いが鼻をついた。
その時である。
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