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八神家の養父切嗣
五十四話:全て遠き―――
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す。

(ディエチちゃん、万が一にも陛下が負けそうになった時は、お願いね)
(わかった。不意打ちでもなんでもするよ)

 体力を削られたところでさらなる強敵と戦う。さらに死角から自身を狙う狙撃手も存在する。簡潔に言えばなのはの現在の状況は―――絶望的だった。





 切嗣の体がグラリと揺らぐ。グレアム達との戦いは誰がどう見ても不利だった。3対2という数の不利、さらに言えば前線を退いたといえど海のエースが三人、しかも相手は自分の魔法の師匠なのだ。どう考えても不利だ。その考察を裏切ることなく切嗣とアインスは傷ついた体を庇うように膝をつく。

「もうそっちに勝ち目はないでしょ。諦めて投降しなさい」
「そうそう、悪いようにはしないから。……もう、頑張らなくてもいいんだよ」

 敵であるにも関わらず憐みと親愛の籠った目を向け近づくリーゼ達。誰がどう見ても切嗣は限界だった。故に近づこうとしたのだがグレアムに手で制される。

「お父様?」
「……君はただの肉体的苦痛で膝を折る男じゃないだろう?」
「フ……流石はギル・グレアムといったところか」

 企みがばれたことに軽く笑う切嗣。しかし、受けた傷はすべて本物だ。常人であればリーゼ達の見込み通り動くことなどできない。その状況から逆転できる何かを彼は隠し持っている。その疑惑がグレアムに警戒を抱かせた。

「アインス、もう隠す必要はない。頼む」
「ああ、わかった」

 その言葉と共に切嗣の傷が目に見える形で再生を始めていく。その光景に思わずあり得ないとグレアムは思ってしまう。彼には治療魔法は使えない。さらにあれほどの傷を一瞬で治していく魔法など聞いたことも見たこともない。

 そこまで考えてアインスの存在を忘れていたことに気付く。ユニゾンすることで治療魔法を使えるようにし、また夜天の書としての知識にある古代魔法も実用可能にする。彼女はまさに切嗣に足りないもの全てを兼ね備えた存在であるだ。



『―――Avalon.(アヴァロン)



 かつて理想に焼き殺された男は立ち上がる。
 決して届くことのない“全て遠き理想郷”へと歩き続けるために。

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