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火影の夜窓(ほかげのやそう)
第二章 水入らずの旅
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きた。
「今日は祭りをするんかねぇ。」
「えっ?」
(なんのことかしら…。)
《あの花火、祭りを開催する合図なんじゃないの?》
おばあさんがまた繰り返し尋る。
「今日は祭りをするんかねぇ。あっちの川で。」
「ああ…、そう…かもしれませんね。
 さっきの花火、その合図でしょうかね。」
祐未は動揺しつつも、うまく話しを合わせて笑顔を作った。
けれど、おばあさんは一度も祐未と目を合わさず、
空を見上げたまま、一人歩いて行ってしまった。
《おばあさん、祐未のこと地元人と間違えたんだね、きっと。》
(ふふ、そうみたい。)
再び歩き出そうとして、目の前の分かれ道に歩が止まる。
(たしか、こっちのはずなんだけど…。)
ためらいつつも左へ曲がると、すぐに古民家風の宿が見えてきた。
(あ、着いたよ。あそこ。)
《へぇ。これまたノスタルジックな佇まい。》

ガラガラっと戸を開ける。
「こんにちはー、今夜お世話になりますー。」
受付には誰の姿も見えない。
靴を下駄箱に入れ一段上がると、奥の台所から会話が聞こえてきた。
「すみませーん、…すみませーん!」
呼びかけるも反応なし。
湯気がもうもうと玄関まで立ち込めている。
「すみませーん、すみませーん!」
何度も呼びかけて、ようやく中から女将が現れた。
「あら、ごめんなさい、気がつかなくて。いらっしゃいませ。」
「予約した高橋です。」
「はいはい、高橋様ですね。
 では、恐れ入りますが、先払いでお願います。」
慌てて財布を取り出し、言われた額を揃えて出す。
「……はい、ちょうどですね、ありがとうございます。
 それでは、レディースプランですので
 この中からお好きな物をひとつどうぞ。」
カゴの中には自然派化粧水や石鹸、アロマエッセンスなどが入っていた。
祐未は迷った末に、竹炭が織り込まれたタオルを選んだ。
「それじゃお部屋へご案内しますね。」
2階に上がり薄暗い廊下を進むと、
右奥に“空き室”の札が下がった貸切風呂の入口が見えた。
「すぐそこがお風呂なんで、混んで来るとちょっと煩くなるかもしれないけど。」
女将はそう言って、一見木戸の一部にも見える
横長の取っ手を浮かしながら部屋の鍵を開けた。
戸を押し開くと軋んだ音がして、中から陽光がもれてきた。
「昔の鍵だから、開けるのにちょっとコツがいるんですよ。
 中から取っ手の木鍵をスライドさせて締めれば、
 外からは絶対開かない仕組みになってますので、ご安心くださいね。」
部屋へ通されると、格子窓からそよぐ風が涼しい。
板の間には真っ赤な座面の木の椅子が二脚と
勾玉(まがたま)のような形のガラステーブルがあり、
それらが部屋を和モダンに彩っている。
隣の畳敷きは50センチほど上がりにな
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