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銀河英雄伝説〜新たなる潮流(エーリッヒ・ヴァレンシュタイン伝)
第百二話 帝国領侵攻
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ないだろう。ここ数日、私は彼らに何度かこの戦いの危険性を訴えている。

「いよいよ明日じゃな……、それにしても帝国領に向けて出撃する日が来るとは……」
ビュコック提督が感慨深げに呟き首を左右に振った。

半世紀を帝国との戦争に費やし、ようやく帝国領に攻め入る日が来るのだ。思うところがあるのだろう。しばらく沈黙が場を支配した。皆、ビュコック提督に遠慮したのかもしれない。

「ヤン提督、貴官はこの遠征が危険だと言っていたが今でも変わらんかね」
沈黙を破ったのは、ビュコック提督だった。少し照れたような、困ったような表情をしている。もしかすると私達の遠慮に恥じているのかもしれない。

「……今でも危険だと考えています」
それが私に出来る精一杯の答えだった。始まる前から負けるとも言えないだろう。

「帝国内では反乱が起きているそうだ。帝国軍のかなりの艦艇が反乱鎮圧に向かったそうだが、知っているかね?」
ボロディン提督が問いかけてきた。私が余りに悲観的なのでその情報を知らないとでも思ったようだ。

「はい、ヴァレンシュタイン司令長官自ら討伐に向かったと聞いています」
「そうか、知った上で危険だと言うのだな」
「ええ」

今、同盟にはフェザーン経由で帝国の情報がかなり詳しく入ってくる。イゼルローン要塞陥落後、帝国内でフェザーンに対する敵意が募った。その事がフェザーンに同盟よりの行動をさせているとシトレ元帥は言っていたが、結局はフェザーンの利益のためだ。何処まで信じていいのか……。

また沈黙が落ちた。どうも妙な感じだ。何が有ったのだろう? そう思っているとウランフ提督が溜息を吐いて話しかけてきた。

「ヤン提督、司令部から命令が有った」
「?」
「オーディンに向けて突き進めと言う事だ」
「……」

やはりきたか……、その命令が来ないのを願っていたのだが。私には罠だとしか思えない。帝国軍は同盟軍を奥深くへ誘引し撃滅するつもりだろう。

本来戦争とは自陣で戦うが有利なのだ。地の利もあるし、敵の補給線の遮断を含む後方の撹乱等いくらでも打つ手はある。

しかし総司令部には分らない、分ろうとしない……。余りにも楽観的なのだ。時々私と彼らが同じものを見ているのか不安になる時がある。本当に勝てると思っているのか?

私達四人の間にまた沈黙が落ちた。私達は第一陣から第四陣を任されている。おそらく厳しい状況に追い込まれるだろう。そのとき総司令部は私達を助けるだろうか? 見捨てる事は無いだろうか? 彼らと話し合ったとき必ず出た疑問だ。そして悲観的な答えしか出なかった……。

今の状況では総司令部を信じることはできない。情けない事だが敵より味方のほうが信用できないのだ。話し合いで出たのは勝つことよりも生き残ることを優先す
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