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冷たい手を
冷たい手を
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ね。あのオペラやるようになってそうなったよね」
「それでね。私気付いたのよ」
 横目でちらりと見たら少し俯いた感じだった。彼女は気恥ずかしそうに僕に言ってくる。
「私。あのヒロインと同じになったのよ」
「まさかそれって」
「貴方のこと好きになったの」
 二人称が変わってた。これまでは僕のことを君付けで呼んできたり君と呼んできたりしてきていた。けれど今は貴方だった。そこからもう違っていた。
 その普段と違う二人称からだ。彼女は僕にさらに言ってきた。
「駄目かな。私とよかったら」
「告白、だよね」
「そうなの。貴方のこと好きになったのよ」
「僕の何処が好きになったのかな」
「真面目にいつも台本読んで勉強して努力してたよね」
 僕の外見のことじゃなかった。内面からのことだった。
「そういうのを見てて。いつも頑張ってる貴方のこと見てたら」
「好きになったんだ」
「そうなの。だから今こうして言ったの」
 とても恥ずかしそうに俯いて。僕に言ってくれる。
「そうしたの。それで返事だけれど」
「ちょっと。ずるいね」
「ずるい?」
「手を出してくれるかな」
 僕は彼女の告白に答えなかった。そのかわりだ。
 僕は彼女にこう言った。手を出して欲しいと。彼女は僕のその言葉に最初きょとんとした顔になった。
 けれどその手を僕の前に差し出してくれた。そうしてその手を。
 僕は自分の手で握った。そのうえでこう彼女に言った。
「あのオペラだけれどね。主人公とヒロインはこうして手を握り合ってから歌うよね」
「あの場面ね」
 ラ=ボエームの最初の見せ場だ。ここから主人公とヒロインがそれぞれの歌を歌って最後は二人で歌って終わらせる。第一幕のクライマックスの場面だ。
 その場面も二人で何度も台本を読んで練習してきた。その場面から僕は言った。
「こうして握ったら。君の手凄く冷たいから」
「温めてくれるの?」
「こうして温めていいかな」
 僕はその冷たい手を自分の手で握り締めながら彼女に言った。
「そうしていいかな」
「お願いできるかしら」
 彼女は僕にこう返してくれた。返してきたんじゃなくてくれた、だった。今の僕からしてみればそう思えることだった。
「じゃあ私の手。これからね」
「温めさせて。そうさせてね」
「ええ、お願いするわ」
 彼女は顔を上げてきた。その顔は微笑んでいた。
 そしてその微笑んだ顔で僕に言ってきながら笑顔のままで黒い大きな瞳からぽろり、ぽろりと涙を流してきた。泣きだしてしまった。
 笑顔のまま泣く彼女の目をそっと拭いてから僕は彼女に言った。
「明日から。宜しくね」
「こちらこそね」
 彼女も言葉を返して
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