冷たい手を
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先生が言うにはこうした台本は自分の台詞だけでなく他の役の台詞まで隅から隅まで読まないといけない、出来れば台本は全部、他の人の台詞まで丸暗記してあらすじも把握しないといけないらしい。僕は最初そこまではと思ったけれど先輩達にも言われて舞台にあがる時は自分の台詞だけでなく他の役の台詞も覚える様にした。
台本をとにかく何度も何度も読む。けれどどうしても覚えられない時もある。この時がそうで部室で台本を読みながら困っていた。そこにだった。
彼女が来てそうして僕にそっと言ってくれた。
「その台本が覚えられないの?」
「ちょっとね。どうしたものかな」
「それなら。書いてみたらどうかしら」
こう僕に言ってくれた。読んで覚えられないのなら書いてはどうかというのだ。
「そうしたら読むよりずっと確かに覚えられるわよ」
「そうすればいいんだ」
「何回も読むよりも。一回書いた方がいいから」
だからだ。書くべきだと教えてくれた。そして覚えるだけじゃなかった。
「その方が台本もよく細かいところまで見えるしわかると思うから」
「書く方が。それじゃあ」
「やってみて」
僕は彼女の教えてくれるまま台本を書いてみた。所謂書き写しをしてみた。するとだった。確かに何度も読むよりずっとだ。台本が頭に入った。
それから台本は書いて覚えた。彼女が教えてくれたまま。
そうして台本を覚えて細かいところまで理解するようになると先生も先輩達も僕にどんどんいい役をくれた。そうして遂にだった。
僕は主役を任される様になった。その劇がだった。
また物凄いものだった。歌う、それも最初からはじめまで。オペラだった。
はじめにそのことを聞いて冗談かと思ったけれど違ってた。流石にイタリア語ではしないけれどオペラを、管弦楽部と一緒になってすることになった。話に乗った管弦楽部も凄いと思うけれど最初に考えた顧問の先生も凄かった。そしてその先生がだ。僕を直々に指名してきたのだった。
「君の声域が丁度主役に合っているしね」
「それで、なんですか」
「それと君ならいけると思うからね」
主役でだ。オペラを最初から最後まで歌って演じられるというのだ。買いかぶりじゃないかと思ったけれど先生は本気だった。そしてその僕の相手役がだ。
彼女だった。主役の僕も抜擢だけれどヒロインの彼女もそうだった。とにかく先生は今回は思いきったことをしたいことはよくわかった。
けれど僕も彼女も断らなかった。正直どうしようと思ったけれど主役だ。それもはじめての。それなら僕は断れなかった。彼女もそれは同じで二人共練習や打ち合わせを重ねていった。
その中でだ。僕達は一緒にいることが自然と多くなった。何しろ主人公とヒロインだ。二人だけの練習や打ち合
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