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火影の夜窓(ほかげのやそう)
第一章 色褪せぬ恋
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転を利かせてここまで応えてくれるなんて、
どこまでもスマートな人…。
祐未はそのさり気ない『ナイト』振りに感服しながら、
彼の肩にそっと寄り添った。

その後も、二人の交際は順調に深まってゆき、
やがて、式場の話しがちらほら出た始めた1年前の初夏のこと。
突如、陽介が検査入院することになった。
会社の健診で肺に影が見つかったのだ。
だいぶ前から軽い胸の痛みや咳は自覚していたようだが、
精査すると、病状は思いのほか深刻であった。
進行した肺癌だったのだ。
脳や肝臓にも転移が見られ、彼は余命宣告を受ける。
そのショックは測り知れなかった。
手術は困難なため、放射線と抗癌剤治療が始まった。
だが願いも虚しく癌の進行は速かった。

病室で誕生日を迎えた翌月には、
呼吸ができないほど咳こむようになった。
そうなると、四六時中、酸素チューブが外せなくなった。
その頃から彼の様子がおかしくなる。
祐未は毎日のように病室へ顔を出していたが、
ある日、彼の母親に呼び止められ、
当分の間、見舞いは控えてほしいと言われた。
彼がそう希望しているのだという。
電話やメールで接触を試みたが、やはりだめだった。
きっと、治療に疲れて、今は誰にも会いたくないんだわ。
祐未は、陽介の気持ちが上向きになるのをひたすら待っていたが、
数日後に彼から届いた直筆の手紙を読んで、落胆した。
僕はもう長くない。祐未との結婚を夢見てきたが、諦めるしかない。
こんなことになってしまい、本当に申し訳ない。
僕のことは早く忘れて、どうか新しい人生を歩んでほしい。
そんな内容であった。
当然、祐未は受け入れられず、その後何度も病院に足を運んだが、
陽介は頑として会ってくれなかった。
自分も辛いが、今一番辛いのは陽介だ。
そう思い直し、祐未は神社仏閣をめぐっては
お守りやお札をかき集め、懸命に回復を祈った。

だがそれから間もなく、
彼の母親から連絡を受け病室に駆けつけた時には、
既に彼の意識はなくなっていた。
荒い息に酸素マスクが白く曇る。
意識が戻らないまま、1時間程どうにか命を繋いではいたが、
やがて脈が弱くなり、二度大きく胸を膨らませると、
彼は静かに息を引き取った。去年の9月18日のことだった。



「今日は車で来ようかとも思ったんだけど、
 やっぱり長距離運転は自信がなくて…。
 あなたも知ってるでしょ、私の運転レベル…、うふふ。
 だから電車とバスを乗り継いで、はるばる来ました。
 それに今日は、秩父まで足を伸ばそうと思うの。
 あなたも連れてってあげるわね。
 今日泊まる旅館は温泉じゃないんだけど
 貸切風呂があるんだって。あなた、お風呂好きだったもんね。
 久しぶりに汗を流すといい
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