第五話 仮面舞踏会だよミューゼル退治 その@
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オーディンの帝国騎士地区には帝国騎士と叙爵予定者だけが利用できる騎士会館という集会所がある。
十二歳になり、騎士会館に出入りを許された俺はその年の最初の帰省の日から早速、騎士会館に足を運んでミューゼル家について調査を開始した。
俺が貴族社会で栄達するために最大の邪魔者、それはラインハルト・フォン・ミューゼルであることは疑う余地がない。
何としても、潰しておく必要がある。
幸いミューゼル家はかつてのロイエンタール家と同じく、ルドルフ大帝以来の帝国騎士『大帝の騎士』の家柄で、帝国騎士の中では最も格式が高い部類に属する。調べる口実はすぐに思いついた。
「ぼっちゃま、ほんとうに、お調べになるのでございますか」
「ああ。アルノルト。貧民の噂があてになるはずもないからな」
騎士会館の書庫の前で、俺は半ば呆れ顔半ば心配顔のアルノルトに力強く断言した。
「僕も勧めないよ、アルフレット。伝え聞くミューゼル家の当代のありようはとても、『大帝の騎士』とは思えない」
「名門の方々を悪く言いたくはないけれど、家格で及ばない嫉妬を酒の力を借りて晴らしているだけだろう。ルドルフ大帝陛下が惰弱な血統を騎士に叙されるはずがない。『真実は厳然として一つ』だ」
子供らしいルドルフ大帝への無邪気な信奉心を装い、とどめに『少年探偵ライヘンバッハ』の決めゼリフで駄目押しを加えると、もう一人の同行者ブルーノ──ブルーノ・フォン・クナップシュタインは不承不承といった体で口を閉ざした。
ふふふ、こいつも下級とはいえ生まれながらの貴族、ルドルフ大帝を持ち出されれば反論できまい。お前が『少年探偵ライヘンバッハ』の愛読者、熱心なファンであることも一年半の付き合いで知っておる。休暇を潰して悪いが、今日は俺のアリバイ作りに協力してもらうぜ、けけ、けけ、けけ。
「ぼっちゃま…お気持ちは分かりますが…」
「アルノルト、我が家は『真鍮の拍車の騎士』、ミューゼル家はかつての家宰さまと同じ『大帝の騎士』だ。家宰さまに見習うのはもちろんだけれど、一人でも多くの立派な騎士について知って、そして実際に会って、帝国騎士としての心得の教えを乞いたい。お手本にしたいんだ」
心の中で目だけが露出する全身タイツを脱ぎ捨て、悪魔の笑いを消して貴族になろうと努力する少年の仮面をかぶり直し、父上に騎士会館へ行く許しを得た時の言葉そして『真鍮の拍車の騎士』、という単語を俺が口にすると、口を開きかけたアルノルトははっとして黙り込んだ。
我が家の商人上がりの家格の低さと格の高い帝国騎士の父上や俺を見る目の冷たさを改めて思い出したのだろう。
『真鍮の拍車の騎士』とは帝国騎士の中でも最下位の格式、叙爵されてから三世代を経過していない家を指す。門閥貴族の言う『ようやくに人がましくなった
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