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艦隊これくしょん【幻の特務艦】
第八話 南西諸島攻略作戦(前編)
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榛名が言った。
「はい・・・・。」
まだ榛名にその返事をしていなかったことに紀伊は胸が痛んだ。
「いつも学科で使用している棟の隅っこにピアノがあってね。そこで3人で代わりばんこに弾いていたってわけ。」
だからさっきピアノの音が聞こえていたのだ。
「ピアノですか、そういえばここにきて全然弾いてなかったな・・・・・。」
最後の独り言のつぶやきを瑞鶴と翔鶴は聞き逃さなかった。
「紀伊、もしかして・・・・?」
「弾けるんですか?」
「え?」
紀伊は目を瞬きさせたが、やがて恥ずかしそうに首を振った。
「横須賀鎮守府にいた時、ほんの少しだけ触ってました。名前はおしえてくれませんでしたけれど・・・・ある方が教えてくださったんです。」
当初は周りから隔離されるようにして過ごしていたため、紀伊は一人ぼっちだった。近づく者といえば軍令部の限られた人間だけだった。そんなある日、一人の女性が自分の部屋で所在無げに外を見つめている紀伊に話しかけ、ピアノの部屋に連れていき、弾き方を教えてくれたのだという。
「その方は誰だったんですか?」
榛名の問いに紀伊は当惑したように答えた。
「わかりません。その人が軍属だったのかも、あるいは艦娘だったのかもわからないんです。」
「どんな人だったの?」
「灰色の長い髪に私と同じ灰色の瞳をしたとても優しそうな人でした。服は・・・・海軍軍令部の人の服装みたいでしたけれど、でも、どこか違っていたような・・・・。」
「じゃあ、艦娘じゃないわね。そんな人は聞いたことがないもの。」
瑞鶴の横で榛名が何か言いかけたそうにしたが、すぐに口をつぐんだ。
「紀伊、その人から教わったんならあなたも私たちと一緒にピアノ弾かない?」
「・・・・・私は、その・・・でも・・・・。」
紀伊は口ごもった。
「練習を重ねれば自信はきっとついてくるわよ、練度向上と一緒よ。」
「でも、練度は上がっても私が誰なのかはわからないまま・・・・あっ!!」
慌てて口に手を当てたが、もう遅かった。3人は再び顔を見合わせた。
「それでこんなところに一人でいらしていたんですね。」
翔鶴が言った。
「はい・・・・。あの、皆さんがとても優しくしてくれて本当に嬉しいです。それは本当です。でも・・・・時折無性に寂しくなるんです。ここに来てからしばらくたちますが、私が誰なのか、自分自身にも答えが出せないままだから・・・・・。」
紀伊は視線を落とした。
「提督にさえもお答えをいただいていません。」
「確かに、私たちは前世の記憶をもって生まれてきました。つらいこともあったけれど、自分が誰なのか・・・・それはずっと見えていたような気がします。」
榛名が言った。
「前世の記憶なんて嫌なことばかりだったけれど・・・・。でも、そうか、そうよね。私には翔鶴姉が
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