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魔法少女リリカルなのは 〜最強のお人好しと黒き羽〜
第十六話 やり直し
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は皮肉にもお兄ちゃんとお姉ちゃんの会話を聴いてしまう。

 五年前、お兄ちゃんの身に起こったことはあまりにも理不尽で不幸な出来事だった。

 当事者ではないアタシには、その程度の感想しか抱けなくて、同時に強い後悔の念を抱く。

 だってアタシはお兄ちゃんに再会するやいなや、一方的な言葉だけぶつけて、傷つけてしまった。

 お兄ちゃんにだってお兄ちゃんの人生があって、お兄ちゃんにだってお兄ちゃんの不幸があったのに。

 何も知らなかったアタシは、アタシとお姉ちゃんだけが不幸になったと勘違いしてしまった。

 この五年間、お姉ちゃんはお兄ちゃんのことを一度だって恨んだことはなかったのを覚えてる。

 むしろ再会する日を楽しみにしてて、その日のために強くなろうって誰よりも努力していた。

 勝手に誰かを不幸だと決めつけて、勝手に誰かを悪役にして、勝手な言葉をぶつけて……。

「ほんと、私って……」

 考えるだけで自分が嫌いになる。
 
 本当に謝るべきなのはどちらなのか。

 そんなの、分かりきっているのに。

 本当は今すぐにでもお兄ちゃんに謝りたいのに、アタシはこうして逃げて、時間を稼いでしまう。

 だけどお兄ちゃんの涙を見て、それを受け止めるお姉ちゃんを見て、決心がついた。

 全部話して、ちゃんと謝ろう。

 お兄ちゃんは許してくれないかもしれない。

 このまま一生、元には戻れないかもしれない。

 それでも、悲しむならせめてやれることは全部やってから悲しみたい。

 じゃなきゃこの先十年、二十年以上続く人生で一生引きずることになるはずだから。

 お兄ちゃんのことはちゃんと精算したい。

 どんな結果になろうとも。

 そう決意したアタシは火を止め、お兄ちゃんとお姉ちゃんのもとに歩み寄った――――。


*****


「ありがとう、雪鳴」

「大丈夫?」

「ああ、充分だ」

「よかった」

 泣き止み、心も穏やかになったところで俺は雪鳴から離れる。

 雪鳴の両手が名残惜しそうに肩から指先まで滑るように離れていったことに、ちょっとだけ恥ずかしさを抱きながら俺は雪鳴の顔を見つめると、雪鳴も少し照れくさそうに頬を紅く染めていた。

 こうして抱えてるものを全部吐き出して、俺の心は軽くなった気がする。

 重いものが抜けてくれたような、そんな感覚。

 孤独、喪失、絶望、悲愴……。

 色んな負の感情が重荷となって溜まっていて、それら全部が抜けていったのは不思議な気分だ。

 決して嫌ではないけれど、今度はスッカスカになって不安になる。

 この空いた空間に、今度は何が溜まっていくのだろうかと不安になる。

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