ありがとう!(V完結編)
[10/33]
[1]次 [9]前 最後 最初
を見回した。駐車場と道路を隔てて、一軒の蕎麦店が見えた。「あそこに、御蕎麦屋さんが有りますが、松葉杖で、大丈夫ですか?」と、幸世は聞いた。「大丈夫」と、総一郎は答え、松葉杖を使って歩き始めた。歩行者専用の一時停止信号に、辿り着いた。ボタンを押した。左右の車が停止した。総一郎が松葉杖を使って、ゆっくり渡り始めた。横断歩道を渡る途中で、総一郎は、停止中の左右の車の一台一台に、深々と、お辞儀をした。幸世も釣られて、お辞儀をした。停止中の車を運転していた人も、釣られて、お辞儀をした。又しても、幸世は、総一郎の心温まる光景に、遭遇した。1
丁度、昼時で、店内は混んでいた。席が一つだけ、空いていた。二人は、相席を余儀なくされた。幸世は、まず総一郎のみを、座らせ様とした。四人掛の席で、母親らしき女性と、幼い兄妹の三人が、座っていた。女性が、年少の女の子を、自分の膝に移し、席を一つ空けた。幸世と総一郎は「すいません」と、言って、二人は席に着いた。親子は、みすぼらしい身形だった。店内は、客の熱気で暑かった。二人は、天ザルを注文した。親子の注文した品が、先にきた。素うどんが、一つだった。幼い兄妹が、素うどんを、美味しそうに分け合って食べ、母親は食べずに、見ているだけだった。二人が注文した、天ザルがきた。素うどんを食べ終った兄妹が、天ザルを見詰めていた。「どうぞ食べて下さい」と、総一郎は言って、対面の席に天ザルを差出した。釣られて幸世も差出した。母親は「見ず知らずの人に、こんな事をされても困ります」と、言った。「どうぞ、どうぞ、私達は朝飯が遅かったので、未だ、腹が空いていません。な、幸ちゃん」と、総一郎は言ってから、幸世の顔を見た。幸世は面食らった顔で、咄嗟に頷いた。兄妹は「お爺ちゃん、小母ちゃん、有難う」と、言って天ザルに、むしゃぶり付いた。「お母さんも、どうぞ」と、総一郎は言った。母親が「でも」と、躊躇って言ったら「どうぞ」と、総一郎は再度、言った。では、お言葉に甘えて」と、言って、兄妹と一緒に食べ始めた。三人を見て、総一郎は満足気な顔をしていた。別の客が、総一郎の、テーブルに立て掛けてあった松葉杖を、倒したが、その客は、直しもしないで、店を出ていった。兄妹の男の子が、即座に、松葉杖を拾って、テーブルに立て掛けた。「有難うね」と、総一郎が言うと、男の子は、照れ笑いをして「小母ちゃんは、さっちゃんて、云うのだね。さっき、お爺ちゃんが、云っていたよ。お爺ちゃんは何て言うの?」と、言った。「総一郎。坊やは?」と、総一郎が言った。「健太。妹は真喜」と、男の子は答えた。「ケンちゃんと、マーちゃんか」と、総一郎が微笑みながら、言った。幸世は、女の子を、揺子と照らし合わせて、見詰めていた。女性は「今日は、持ち合わせが有りません。後日、払いますので、名前と住所を
[1]次 [9]前 最後 最初
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ