ありがとう!(V完結編)
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郎は「随分、派手だな。SはスケベのSで、HはエッチのHか?」と、言った。「違います。Sは総一郎のSで、Hは早川のです。お父さんには、老けないで欲しいから、敢えて、派手な色で作りました」と、幸世は答えた。「あ!そうか!幸ちゃん、有難う」と、総一郎は笑って言った。傍に、モンタの新しい猿服が有った。幸世の町場仕込みの、現代風の料理と洋裁は、集落で評判となり、女性の村人が幸世に、教わりに来る様になった。とりわけ、年寄り女性は町場まで行く足が無く、幸世に仕立服を頼んだ。高齢化が進む集落では、幸世は久しぶりの、若い女性の住人であった。ブリッ子特有の、あどけなさが有る幸世は、集落の天使的な存在になっていった。男性の村人の中には、幸世が目当てで、総一郎の家に来る者もいた。二人が婚姻届を出してから一週間過ぎた夜、建一が幸世を、居間に呼び寄せた。そこには、総一郎も同席して居た。建一は幸世の手を取り、自分のポッケットから、金の指輪を取り出し、幸世の左手の薬指に填めた。幸世はビックリした。今度は総一郎が、自分のポッケットから金の指輪を取り出し、幸世に渡し、幸世に向かって頷いた。幸世は、建一の左手の薬指に填めた。指輪は、器用な総一郎が、急遽、地金から、手作りで作った物で、婚姻届の日付も刻んで有った。幸世は、建一の家に来てから、嬉し涙の連続で、涙も底をつく程だった。幸世は、幸せの絶頂だったが、揺子の事だけは、心配の種だった。しかし幸世には、それを、自分の秘密として、心の奥へ、仕舞う術しか無かった。
在る日、幸世は、総一郎を買物に誘った。足の不自由な総一郎は、自宅に閉じ籠った侭で、外出する機会は殆ど無かった。それは、総一郎の気分転換の為の、幸世の気配りだった。例の如く、幸世はサングラスとマスクを付け、総一郎を助手席に乗せ、水色の軽乗用車で、ホームセンターに向かった。ホームセンターに着き、幸世は車椅子を持って来た。始めは車椅子を躊躇っていた総一郎だが、歩行に時間が掛かっては、幸世に迷惑が掛かると思い「幸ちゃん、有難う」と、言って、車椅子に乗った。起伏が多い山村では、車椅子は無用の長物で、自宅では、松葉杖だけが頼りだった。幸世は主として、仕立服で頼まれた生地と、自分が必要な生地と、食糧品を買い求めた。総一郎は、会計の都度、店員達に深々と頭を下げ、「有難う」を連発していた。頭を下げられた店員達は、一瞬、狼狽えた(うろたえた)が即、店員達の顔は、笑顔に一変した。相手を気遣う、総一郎の、和やかなワンシーンだった。買物を終え、時刻は昼時だった。幸世は駐車場で、買物を軽乗用車に積み、車椅子を、ホームセンターの出入り口に戻した。総一郎が「幸ちゃん、腹減った。何か食べよう」と、言った。「お父さんは何が良いですか?」と、幸世が聞いた。「そうだな、久しぶりに、蕎麦が食べたいな」と、総一郎が答えた。幸世は辺り
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