ありがとう!(V完結編)
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木工玩具で、一杯だったが、揺子は相変わらず、幸世の作った猿の縫いぐるみが、一番好きだった。夜、総一郎は、絶えずパソコンから、おとぎ話や民話を、読んで聴かせた。揺子は、その儘、総一郎の布団で眠ってしまう事が常で、モンタは建一の部屋で寝た。在る日の朝、建一が農場に向かおうとしたら、軽トラックの白いドアの両ボデーに、マジックで、落書きが書かれていた。相合傘で男女が描かれ,下に平仮名で[けんいち・さちよ]と、書いて有り、絵も字も子供の物だった。建一が揺子に聞くと「パパが、の三輪車にも、揺子の三輪車にも、[誰の物か、分からなくなると困る]と、云って、名前を書いたよ。だからパパの車にも、揺子が名前を書いて上げたの。私の服にもモンタの服にも、自分の名前が有るよ。爺ちゃんの服にも、名前を書いておいたよ」と、言った。建一が「字は、何処で覚えたの?」と、聞くと、揺子は「健太が、教えて呉れたの」と、答えた。建一は、苦笑いをした。総一郎が、[そういちろう]の名入の仕事着で、仕事場から出て来て、建一を呼んだ。建一が「揺子の仕業だ」と、言った。揺子が「爺ちゃん、カッコ良い」と、言った。総一郎も、苦笑いをした。以後、建一の、相合傘マークの白色の軽トラックは、何処でも、判別が付く様になった。
二年が過ぎた。在る日、建一は揺子と一緒にモンタを乗せ、霊園に、墓参りに行った。その日は、昨夜から雨が降り続いて、農作業も休みだった。墓石には高木五郎・高木昌世・高木昌五と彫って有った。建一は、庭から取って来た花を、花立てに御供えし、合掌・礼拝をした。揺子とモンタも、真似をして合掌した。幼い揺子には、合掌の意味も墓の意味も、解らなかった。建一は、何れ大人になったら解ると思い、敢えて何も喋らなかった。先程から[モンタの様子が、変だな]と、建一は感じていた。揺子が「パパ、おしっこ」と、言った。建一は「事務所で、トイレを借りなさい」と、言った。揺子は、事務所のドアを開き、飛び込んで行った。トイレは、事務所の出入り口のドアの傍に在った。揺子は小用を済ませ出て来た。揺子は慌てていたので、事務所の出入り口のドアが、判らなく成り、間違えて事務室のドアを、静かに開けた。そこには女の人が一人、机で何かを書いていた。揺子はビックリした。慌てて、反対側の入り口のドアから、外に飛び出した。「パパ、ママがいる!」と、揺子は大声で叫んだ。建一は、大急ぎで事務所に入り、事務室のドアを開けた。「幸ちゃん!」と、建一は叫んだ。幸世は思わず「建、建ちゃん?よ・よ・揺子?」と、目を丸くして言った。揺子が泣きながら「ママ」と、言って、幸世の足に、しがみ付いた。モンタが、幸世の胸に、抱き付いた。幸世は「ごめんね、揺子」と、言って、泣き崩れた。三人は寄り添って、暫し泣いていた。揺子の衣服に、揺子の文字が有った。幸世は、揺子を抱き上げ「大きくなっ
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