ありがとう!(V完結編)
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一枝が軽トラックに戻って来て「幸世さん、どうしたの?」と、聞いた。幸世は、沈うつな表情で「何でもないよ」と、答え「悪いけど、帰りの運転、一枝さんが変わって呉れる?」と、言った。一枝は「フロアーに居る時、薄禿げ男の人がきて、名刺を差し出し[融資部長の久保信雄です]先程の方は?と、幸世さんの事を,聞かれたので[私の集落の早川幸世です]と、答えた。[集落の名前は?]と、聞かれたので,集落の名前も教えた」と、言った。一番知られたく無い信雄に、自分の新しい名前と所在が、分かってしまった。幸世は、顔が青ざめた。家路の途中、助手席で、俯き沈黙していた。その日の夜、幸世は、自分達の部屋で、建一に、ゴルフ場の出来事を話し、泣きながら胸に抱き付いた。建一は「此れからは、ゴルフ場に行かなくても、良いよ」と、言った。それ以後、幸世の表情が暗くなった。
数年後、この盆地に、震度5強の直下型地震が襲った。昔作りの集落の家屋は、総一郎と建一の補強の功を通し、全く損害が無かった。塚本工務店鰍フ造成団地は、価格安による手抜き工事のため、土地は地割れを越し、家屋の三分の二以上が崩壊し、残りの家屋も、何だかの損害を受けた。塚本工務店鰍フ手抜き工事は、マスコミで大々的に報道され、国土交通省も現地調査に入った。塚本工務店鰍ヘ、巨額な、損害賠償を課せられ、社長の塚本一郎と、専務の塚本久子は、刑事責任まで問われた。連日、塚本工務店鰍フ前には、住宅購入者による「家を返せ。住宅ローン返済の金、よこせ。詐欺者」などの、抗議の行動が殺到し、警察まで出動する事態になった。塚本工務店鰍ヘ遂に倒産に至り、社長と専務は手抜き工事・偽造設計の罪で投獄された。塚本工務店鰍フメインバンクで或る信雄の銀行は、焦げ付による、巨額な不良債権が生じ、その融資の殆どに、関与していた融資部長の信雄は、即刻、解雇された。御曹司の信雄と、一人娘の久子は、双方とも我が儘で、既に仮面夫婦だった。二人は、今度の事を期に、離婚した。
三ヶ月程経って、今度は、盆地にフェーン現象が起きた。その日、久保葡萄園は雑草を燃やしていた。火が葡萄の木に引火した。強風に煽られ、瞬く間に、別の葡萄の木に、燃え広がった。火は、半日以上に渡り燃え続けた。葡萄園は元々、水の便が悪く、なだらかな傾斜地で、農作業車が通れる狭い道しか、無かった。広大な久保葡萄園は、消火に手の施しようが無く、全焼した。
一人息子で御曹司の信雄は、エリート意識が強く、焼け爛れた父親の葡萄園を、再建する意欲は無かった。信雄の父親は、一代で久保葡萄園を築いた、叩き上げの人物だった。信雄の行動や言動に、業を煮やした父親は、已む無く、信雄を勘当し、一番信頼できる一人娘(妹)の夫に、再建を任せた。
数週間後、幸世の携帯電話に電話が有った。信雄からで「久子と離婚したから、また縁り(より)を戻そう。結婚
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