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ありがとう!(T幸世の半生)
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遺族の方々が、相続の内輪揉めをする様な、見苦しく、嫌な葬儀も有ります。高木さんの葬儀は、私の記憶に刻まれます」と、葬儀社は、自分の身の上話まで、話してくれた。高木家は、隣近所とは希薄な付き合いだけで、絆は乏しかった。幸世の目に、一筋の涙が流れた。幸世は、実直な葬儀社が、真のお坊さんの様に思えた。葬儀社は「これで失礼します」と、言って、自分の車に向かって帰って行った。幸世は、葬儀社の後ろ姿に、温かさを感じ、同時に物悲しさも感じていた。
幸世は産婦人科に居た。定期健診で事前に赤子は、女の子だと告げられていた。出産前に、産衣は買い求め、ベビー服は手作りで用意した。それらに幸世は、揺子(ようこ)の名前を刺繍した。その中には、モンタをモデルにした、帽子を被り、服を着た、猿の縫いぐるみも含まれていた。幸世は、赤子を孤児として児童養護施設(孤児院)に預ければ、赤子に、新規の戸籍が出来る事を、調べ済みだった。私生児の赤子・揺子には親族に殺人者がいる汚れた戸籍を、継がせたくは無かった。赤子・揺子が予定日より一日遅く生まれた。揺子は、標準体重を若干上回る、すこぶる元気な可愛い赤子だった。一週間程で幸世は、産婦人科を退院し、アパートに戻った。揺子は、懸念していた信雄には似ないで、幸世とソックリだった。翌日から、幸世は揺子を背負って職を探したが、保証人も居なく、増して、乳飲み子を抱えている幸世を雇ってくれる所は、何処にも無かった。保育園も満員で、頼る親戚も無かった。アパートで揺子に、刺繍で名入いたベビー服を、着せては替え、着せては替え、携帯電話で、揺子の写真を撮り溜めした。それは、丸で着せ替え人形の様だったが、幸世には、別れる可愛い揺子の写真を、撮っておきたかった。自宅の売買を一任しておいた司法書士から、電話があった。「自宅が空き家だから、隣近所から、不用心で火災の危険も有るなどの、クレームが殺到している。丁度、知り合いの不動産屋から[更地にして、評価額の、三分の一で買いたい]と、云う話がある。問題が有る家屋と土地なので、早く処分した方が良いのでは?」との、打診の電話だった。幸世は自宅には、全く帰っていなかった。幸世は、その話を受諾した。自宅の住宅ローンの残債は、自宅と土地を売った金額を当てたが、若干不足が生じた。不動産屋は更地にして、子供の遊び場として、幸世が売却した三倍の公示価格で、市に買い上げて貰った事を、葬儀社から聞いた。幸世は通帳を見た。墓地購入などの出費が加わった、通帳には、未だ500万円強の金額が有った。揺子の戸籍には、忌まわしい過去を、断ち切りたかった。幸世は、預金を全額降ろした。手紙を書き、封筒に入れた。手紙は[子供の名前は、揺子です。私生児です。鞄の中に、お金が入っています。揺子の為に使って下さい。お願いが有ります。揺子に新しい戸籍を、作って下さい。絶対に、絶
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