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ありがとう!(T幸世の半生)
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ード出世あったが、以前の五郎の部下でもあった。彼の実家は、地元でも有名な大ブドウ園で、ワインの醸造も手掛けていた。彼は、久保葡萄園の御曹司だったので、東京の大企業を選ばず、地元の地方銀行に就職した。即座に新支店長は、支店の女子行員の憧れの的になった。
ブリッ子に見える幸世は、いち早く、新支店長・信雄の目に止まった。新支店長が、着任して三ヶ月過ぎた金曜日の或る夜、自宅の昌五の部屋で、幸世は昌五と戯れていた。幸世の携帯電話が鳴った。新支店長・信雄からの電話だった。「明日の土曜日、食事に誘いたい」との、電話だった。信雄からの突然の電話に、幸世は驚いた。管理職の信雄は、部下の個人情報を、容易に閲覧できる立場にあったので、幸世の携帯電話を知る事も、簡単であった。しかし銀行内では、男女交際は、半ば禁止されていた。幸世は戸惑ったが、新支店長からの誘いなので、断れなかった。そばに居た昌五は「銀行の内規なんて関係ないよ。個人を束縛する物だ。姉ちゃんは優しいから、支店長が気に入ったのだ。御馳走様」と、励ましてくれた。でも、幸世は信雄に対し、好感を持っては居なかった。それは、エリート特有な蔑み(さげすみ)目線と、お坊ちゃま育ちの、我が儘の態度と言動だった。先日も、同僚の女子行員に「入れてくれた珈琲が、温い(ぬるい)。親の(しつけ)が悪い」と、文句を言っていた。見下す(みくだす)目線で御客に接するから、時々、御客とのトラブルも生じていた。翌朝、幸世は渋々、指定された待合場所に向かった。そこは、人目に付かないバス停だった。幸世を降ろしたバスが、行き去った。一台の高級外車が、バス停に停まった。車の窓ガラスが開いた。運転席に乗っていたのは、支店長の信雄だった。幸世は助手席に乗り、シートベルトをした。素人の幸世でも判る高級外車で、支店長の給料では買えない高額な車だった。幸世は信雄の事を、やはり御坊ちゃまだと悟った。信雄は、何時もの支店の背広姿とは異なり、ポロシャツにジーンズのラフなスタイルだった。「この町は小さいから、待合場所は、人目に付かない所が良い」と、言った。「私も、そう思います」と、幸世が敬語調で答えた。信雄は人目を嫌い、信州の諏訪湖まで車を走らせた。車内での信雄の言動は。高飛車だったが、幸世は大人しく聞いていた。諏訪湖の湖面は眩い程、美しかった。湖面の見えるレストランで、二人は食事を摂った。食事を終えた二人は、諏訪湖に浮かんだヨットを眺めていた。信雄が口を開いた。「幸世さんの御父さんは、高木五郎さんだね」幸世は「はい」と、答えた。信雄は「高木さんは、僕の先輩だ。でも高木さんは、銀行では御荷物だ」と、言った。父親を侮辱されたが、幸世は、上司である信雄に口答えが出来ず、俯いて、じっと我慢していた。辺りが闇に包まれた頃、二人は自分達の町に戻った。信雄は幸世を、闇夜の幸世の自宅近くま
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