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貴方の背中に、I LOVE YOU(中編)
貴方の背中に、I LOVE YOU(中編)
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と銭湯に行く時のは、何時も女湯だったので、平は男湯に入った事が無かった。平と和は別々に、男湯と女湯に入った。平にとって、男湯は始めてだった。帰りしな、二人は、銭湯の前で待ち合わせた。それは、幼い神田川の様だった。敏郎は、銭湯には行かず、常に、井戸端で背面行水をして、体を洗ってた。敏郎の荷物には、書物が多かった。平と和は、絶えず一緒に遊び、勉強した。敏郎は、語学に始まり、全ての教科を教え、大学助教授の家庭教師の様だった。敏郎の明快で愉快な授業は、二人学力を、メキメキ伸ばしていった。平は、穏やかで温厚な敏郎を、慕う様に成っていた。週に一度、敏郎が翻訳した書物を、近くの郵便局に行き、小包で送った。そして、窓口で、郵便局止めの、敏郎宛の現金書留を貰って来る事と、日用品の買物が、二人の唯一の仕事で有った。その現金書留が、三人の生活源で有った。
二年程過ぎた、ある夜に平は、和の啜り泣きで目を覚ました。和は敏郎の胸で、泣いていた。それは、被爆と世間の冷たい視線に負けた、敏郎の最後の姿だった。平の目には涙が溢れ、平は大切な人を二人も亡くした。平と和の涙は、一昼夜、止める(すべ)を、知らなかった。翌々日、平は、近くの交番に敏郎の死を報告した。静の時の同様に、警察車両が来て、平と和を同乗させ、敏郎の遺体を運んだ。平には、分別が付いてからの、火葬場は始めてで有った。火葬場の窯から上がる一筋の煙は、二人には無情あった。
一日おいて、例の役人が、敏郎の遺骨を壺に入れて、持って来た。平は、骨壺を静の骨壺と並べて、土蔵に安置した。
敏郎の死を期に、郵便局への現金書留も途絶えた。当然、二人の生活の糧も消えた。平は、二人の生活の糧を得る為に、大人の使い走りや、幼い自分でも出来る仕事など、何でも遣ったが、碌な金銭には成らなかった。結局、二人は黄子と一緒に、町中のゴミ箱の残飯を、漁る生活に戻る様に成った。和の白血病は体を虫食み、肌は日増しに、生気を失っていった。ある日、土蔵の中で二人は、静の、空の衣装箱を挟んで、左右に座っていた。平は、自分側の衣装箱の下から、床に赤い紐の端が、出ている事に気が付いた。和の側にも、赤い紐の端が出ていた。平は、紐の端を引いた。和は、自分側の紐の端を、押さえた。空の衣装箱が外れた。紐が繋がった。平と和は、一本の紐の両端を持っていた。それは、静の赤い腰紐だった。間を置いて、平は「僕のお嫁さんになる?」と言った。和は笑って、白ボードに{はい。平が大好きです}と書いた。平が自分の首から、静の遺品の蛍のペンダントを外し、和に掛けた。{綺麗ね}和は、白ボードに書いた。何も無い、幼い、細やかな(ささやかな)結婚式であった。
三日が過ぎた。和は、敏郎が残した手動式のプレイヤーで、レコードを掛けた。手招きで、一緒に踊る様に促した。指で、平の胸に、ごめんなさい。二人は踊った。
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