深夜、猫カフェで
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ガードマンが巡回していると
廊下の一角から明かりがもれているのが見えた。
不審に思いその部屋を覗くと、
コピー機が喘ぎながら死に物狂いで用紙を吐き出していた。
「お一人で残業ですか。」
「ええ、急ぎの仕事で…。もう終わりますから。」
若い女性社員がちらっと振り向いて返事をするが
すぐさま手元の作業に戻る。
「そうですか、ごくろうさまです。
終わりましたら部屋の電気と鍵、お願いしますね。」
「はい。わかりました。」
ガードマンが去って間もなく、コピー機がフーンと息を吐いて止まった。
だるい首をポキポキ鳴らしながら壁に目をやると
時計は間もなく深夜1時になろうとしていた。
「はぁあ、もうこんな時間。終電に間に合わなかったなぁ。どうしよう…。」
への字口とハの字眉に哀愁が滲む。
「そうだ! 駅前に確かネットカフェがあったわよねぇ。
しょうがない。今夜はあそこに泊まるか。」
正面玄関は閉まっていたため、警備室を通って裏の玄関から退社した。
駐車場を抜け、いつもの大通りに出ると、紗英は駅に向かってとぼとぼ歩き出した。
道沿いにコンビニやスナックの看板が重なって見えている。
「あの先に、ネットカフェの看板があったような…。」
目を細めてピントを補正しながら、
お目当ての看板を見過ごすまいと、キョロキョロ探し歩く。
しかし気が付くと駅前通りは途切れ、ロータリー入り口の交差点まで来てしまっていた。
「あれ? おかしいなぁ。」立ち止まり、来た道を振り返る。
ふと見上げると、明るい大窓に小さな物影が…。置物?
「あ、猫だ!」
窓際に黒猫が一匹。
通りを向いてじーっとしている。
「あそこお店?」
窓ガラスの表面に何か大きな文字が逆光に黒く浮かんでいる。
猫を中心にズームアウトしていくと…
「猫カフェ・ムーンキャット…。 へぇ! いつの間にできたんだろ。」
そのビルまで引き返すと、下の入口にしっかり看板も立っていた。
「まだやってるのかなぁ。」
エレベーターで2階に上がってみる。
扉が開くと正面に、店名プレートが貼ってある鉄製のドアがあった。
ノブをそっと引く。するとドアベルが
『キラリン』と魔法でもかけるような音をたてた。
すぐさまカウンターの奥から男性店員が現れ、
「いらっしゃいませ」と、さわやかに挨拶した。
胸のバッチに「店長 後藤」とある。
ずいぶん若い店長さんだ。まだ30代そこそこってところか。
雇われ店長かもしれない。
「お店、まだやってるんですか。」
「はい、朝5時半まで営業してます。」
「そうなんですか。」
「どうぞ、靴を脱いでお上がりください。」
紗英はスリッパに履きかえて、カウンターの前にすすんだ。
「猫カフェは初めてですか?」
「いいえ、あ、ここは
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