深夜、猫カフェで
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るが、これほど立派な子にお目にかかるのは初めてだ。
その透明なブルーの瞳に紗英は瞬時に心を奪われた。
後ろ足のバネを使って、白い巨体が紗英の膝の上に悠然と飛び移る。
ずしっとした重みが太ももに集中し、一瞬「うっ」と息が詰まった。
ラグドールがゆっくり正面を向いて座ると
大きな背中が紗英の胸に無遠慮にのしかかってきた。
足を大開きにして、でーんとくつろいでいる。
まるで、人間の幼児を抱いているようだ。
「ジャバに気に入られたみたいね。」
向かいのソファに座るふくよかな女性が
親しげに声をかけてきた。
「この子、スターウォーズのジャバザハットみたいでしょ。
だからみんなしてこの子のことジャバって呼んでるの。
本当の名前は… あ、あれ? なんだったっけ…。」
「もんたですよ。」
店長がそう言って苦笑い。
「あ、そうだそうだ、もんただ。
ふふふ、なんかこの子見てると他人とは思えないのよぉ〜〜。」
もんたと女性の体格があまりにもよく似ていたので、フロアー中がどっと沸いた。
紗英は腰を少しずらし、姿勢を横向きに変えようとしたが
もんたの重石に太ももがどっぷり漬かり、しばらくは動けそうにない。
仕方なくフロアーに視線を泳がせていると、窓際の黒猫に目がとまった。
「さっきからあの黒猫、ずーっと外を見てますね。
下の通りからもすごく目立ってました。」
紗英が言うと、店長の声が穏やかなトーンに変わった。
「あの子はここの看板猫で、つきみと言います。
つきみが窓辺にいる夜はいつも満月なんですよ。
ほら、あそこに見えるでしょ?」
「ほんとだ。」
雲の際を照らし、まあるい月がくっきり浮かんでいるのが見える。
「満月の夜になるとああやって窓辺に座って、
新しいお客さんを呼び込んでくれるんです。」
「あ、あたし、新客だ!」
紗英が口に手を当て、目を丸くした。
「ホント! まさに招き猫ですね!」
「ええ。僕にとっては福猫です。」
店長は愛おしそうにつきみを見つめながら言った。
「つきみは子猫の頃から満月の明るい夜が大好きで。」
「ああ、それでつきみ?」
「ええ。つきみは僕が初めて飼った猫なんです。
20歳のばあちゃま猫なんですよ。」
「うわー、人間で言ったら100歳ですよねぇ。
ずいぶん長生きだこと。」
「ええ。さすがにここ数年で足腰が弱ってきましたが、
歯だけは丈夫で餌もよく食べるんです。
昔は犬みたいに散歩させたり、外に連れ出すことが多かったな。
そうするとね、鳥やトカゲを仕留めて誇らしげに見せにくるんです。
褒めてやるとまた、どこかへ狩りに出かけて…。」
つきみを見つめ、懐かしそうに語っていた店長の声がふと止まった。
次の言葉を待っていると…、
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