第一部 刻の鼓動
第四章 エマ・シーン
第四節 転向 第三話 (通算第78話)
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いかと、頭の隅で冷静な自分が、どこか他人事のように言っていた。だが、動かずにはいられなかった。居ても立ってもいられなかった。
(どこだ……どこにいる?)
星の海に馴染まず、周囲から浮いた半透明のカプセルを光学センサーが捉えた。補正画像がズームされてサブウィンドウに表示される。だが、最大望遠でもこの距離では中に誰がいるかは解らない。モニターには豆粒ほどのカプセルらしきものが映るだけだ。
アポジモーターの逆噴射とAMBACで制動を掛けて静対を図る。接触でもしようものならカプセルは紙細工のように壊れてしまうだろう。距離はまだあるが、細心に細心を重ねてMSを操縦しなければならない。
――ガクンッ。
軽い振動と共にエマの声がスピーカーに流れる。通常のレーザー通信ではない。お肌の触れ合い通信だった。
加速した機体を引き戻すかのように前に回り込んだエマ機はメズーン機に急制動を掛けていた。カプセルに近づけさせない意図は明白だ。絡み合った二機が押し戻されるように《アーガマ》に近づく。
――メズーン中尉、何をしてるの!あなたは自分の行動が何を引き起こすか解っているのっ!?
エマの声は切迫していた。
エマはジェリドが別命待機していることを知っている。ジャマイカン少佐の――いや、あの脅迫状を自分に持たせたバスクなら、ジェリドにカプセルを狙撃させても不思議はないと思っていた。
「このまま座視しろというのかっ? あそこには家族――かあさんがいるんだぞ!」
カプセルを指差してメズーンが喚く。《アーガマ》と《アレキサンドリア》の中間点辺りに浮かんだカプセルは一つではない。そして、そこに人がいることをエマは艦橋のモニターで確認していた。
嘘だと思いたかった。
卑劣な手段を取るバスクとジャマイカンに反発を覚えてもいた。だから、協力を申し出たのだ。
(民間人を殺させてはいけない!)
それはエマにとって最後の一線だった。
正義の軍隊。その象徴たるべきティターンズ。そのティターンズがやっていいことではない。だから…
――メズーン中尉、私と《アレキサンドリア》に帰還してください。
それしか解決方法はない。奪われた機体が戻れば、バスクとて作戦を強行しないだろうという目論見もあった。それにはメズーンを説得するしかない。だが、エマには知る由もなかったが、メズーンにとって《アレキサンドリア》に機体を回収させることは、自分の行動を否定することでしかなかった。
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