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銀河英雄伝説〜新たなる潮流(エーリッヒ・ヴァレンシュタイン伝)
第九十五話 和平への道 (その1)
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ルローン要塞攻略後、同盟市民の狂乱は止まる所を知らなかった。無理も無いだろう。ここ最近帝国に負け続けてきた同盟軍が、イゼルローン要塞奪取、帝国軍二個艦隊を壊滅にまで追い込んだのだ。特に宇宙艦隊司令長官を捕虜とする寸前まで追い込んだ事は同盟市民の溜飲を下げた。

私たちがハイネセンに帰還したのは五月下旬のことだったが、しばらくは式典と祝宴、インタビューで振り回された。“魔術師”とか“ミラクル”とか言われているがうんざりする。随分と凄い人物のようだが本当に自分のことなのだろうか。

「本部長、今日はお願いがあって参上しました」
「何かな」
「これを受け取っていただきたいのです」

私は出来るだけにこやかに退職願を出した。本部長はしばらく黙って退職願を見るとおもむろに切り出した。
「辞めたいと言うのかね」

「はい」
「しかし君は未だ三十歳だろう」
「二十九歳です」

まだ三十じゃない、間違わないでくれ。
「とにかく、医学上の平均寿命の三分の一も来ていないわけだ、人生を降りるのは早すぎるだろう」
早すぎない。私は本道に回帰するのだ。

「君の艦隊をどうする」
「特設任務部隊ですか?」
「そうだ、特設任務部隊は今度正式に第十三艦隊として編制される事になった。君が辞めたら彼らはどうなる?」

艦隊司令官になりたい人間なんていくらでもいる、そう言いたかったが堪えた。無責任な事を言うなと怒られそうだ。それにしても一旦絡みついたしがらみは容易に解けるもんじゃないな。

「それに帝国の新人事体制を聞いただろう、君も」
「……」
「ヴァレンシュタイン提督が宇宙艦隊司令長官になった。平民出身の司令長官は初めてのことだ」

辞表を出すにあたって唯一気がかりだったのはそのことだった。彼が宇宙艦隊司令長官に就く。一体何を考え、何をしてくるのか? 同盟としては和平を結ぶのが一番なのだが帝国が、彼が受け入れるのか。

やはりローエングラム伯を討てなかった事が悔やまれる。一個人の死を願うのは忸怩たる物があるが、それでも残念だ。

シトレ元帥の表情に沈痛な色がある。何が有った?
「ヤン少将、ヴァレンシュタイン司令長官はもう動き始めている」
「?」
「イゼルローンに要塞を持って来る」
「?」

要塞を持ってくる? どういうことだ?
「ガイエスブルクという要塞が帝国に有るらしい。それにワープ・エンジンを搭載しイゼルローンに運ぶそうだ」

「本当ですか?」
「フェザーン経由で届いた情報だ。確度は高いらしい」
「イゼルローンに要塞を……」

途方も無い男だ。要塞を造るのではなく運んでくるのか。
「宇宙艦隊司令部の一部ではイゼルローンを塞がれる前に帝国領に出兵すべきだという意見がある」
「!」

「ヤン少
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