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ソードアート・オンライン 舞えない黒蝶のバレリーナ (現在修正中)
第一部 ―愚者よ、後ろを振り返ってはならない
第1章
番外編1 彼女の笑顔
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 そんな顔を、君にさせたくはなかった。笑顔が一番似合うだろう顔を、歪ませたくは無かった。苦しい思いも、哀しい思いも、キカにはしてほしくなかったのに。他でもない己が、それを与えてしまう。
 ごめん。ごめんね。守ってあげられなくてごめんね。一人残すことになってしまってごめんね。
 ――――ああもう、時間が無い。
 死の宣告が、視界に浮かぶ。キカの目が、落ちてしまうんじゃないかと一瞬危惧してしまうほど見開かれた。その悲痛な表情に、身体が抉られる。喉が痛い。目の奥が熱い。
 けれど同時に、溢れそうな愛おしさに胸を突かれた。彼女の頬に触れる。ほとんど無意識のうちに、自身の口から言葉が滑り落ちた。
「キカちゃん、好きだったよ」
 僕の眼に映ったあの瞬間から、きっとこの後すぐ訪れる最期まで。
 好きだったんだ。
 偽りもなにも無い。ただ純粋に、キカのことを思っていた。
 ――――だから、どうか。

 どうか、笑っていて。

 音の無い言葉は、ちゃんと伝わってくれたかな。
 ……伝わっていると、いいな。
 キカの笑顔は、どんなに高価で美しい宝石よりも、夜空で瞬く星々よりも、輝いているのだから。



*   *   *



キカちゃんへ
 
 キカちゃんがこの手紙を読んで、もし嫌じゃなかったら……、今日のフロアボス戦が終わった後伝えたいことがあるので、いつもの草原に来てください。待っています。
 面と向かって誘えなくてごめんね。きっと言葉が出なくなっちゃうと思ったので、手紙にしました。
 
 ……あのね、僕は、キカちゃんと出会えて本当に幸せだったと思うんだ。
 キカちゃんと一緒にいるだけで、僕はとてもあたたかくなるんだよ。この前笑ってくれた時は、嬉し過ぎて倒れそうだった。
 多分君は知らないだろうけど、僕、結構必死なんだ。キカちゃんに笑ってほしいなって、どうすれば笑ってくれるかな、って。
 どうすれば、キカちゃんと少しでも長く時間を過ごせるかな、って。

 僕たちが初めて出会った日のこと、覚えていますか。
 君はすごく僕のことを警戒していたよね。けれど、それでも主街区まで送ってくれて、正直驚いたんだ。あの時は、自分から「送ってほしい」って言おうと思っていたから。
 キカちゃん、あのね、絶対否定しちゃうだろうけど、君はすごく優しいと思うんだ。
 君が何故そこまで頑ななのかは分からない。でも、無理やり知ろうとは思うわないよ。出会ってまだそんなに時間が経っていない相手に、全部曝け出せっていうのは無茶だし。
 だけどねそうは言っても、キカちゃんのこと、もっともっと知りたいです。キカちゃんと、もっとずっと一緒に居たいです。隣に立っていたいです。
 だからそのために、僕も一歩踏み出したいと思います。


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