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ソードアート・オンライン 舞えない黒蝶のバレリーナ (現在修正中)
第一部 ―愚者よ、後ろを振り返ってはならない
第1章
第10話 黒染めの化け物(後編)
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つい顔が、茫然と私を見詰めていた。「やめろ」と、その口が微かに形作られる。
「そこの人はただ阿呆なだけだから、内心笑っていられたわ。“こんなことにムキになって馬鹿だな”、ってね。けれど」
 ああ、力の入らない手足が悔しい。本当なら、もっと手酷くエギルを罵って、“この女の仲間では無い”と強く植え付けなければいけないのに。
「……けれど、自分がやったことを後悔するような奴と比べられるなんて、これ以上ない侮辱よ。ふざけないで」
 ――――どうか、お元気で。
 そっと瞑目し、心の中で祈る。
「目障りだわ。早く私の前から消えてちょうだい」
 ボス部屋の空気が一気に硬直した。痛いくらいに静まり返る。誰一人として、動こうとしなかった。
 だが、やがて、成り行きを見ていた男が人垣から歩み出てくる。ディアベルの隊だった人物だ。私は咄嗟に身構えるが、チラリと一瞥されただけで、特に何も言われることはなく、
「おい、リンド。もうよせ」
「シヴァタ……」
 リンドと呼ばれたその男が、新たに前へ来た長身な男に肩を叩かれる。気まずそうにチラチラと視線を漂わせるリンドを、シヴァタが背中を強く押して促した。しかしリンドはまだ納得出来ていないらしく、私を不快げに睥睨してきている。
 シヴァタという男がさらに出てきたことによって、場の時間が再び動き出したらしい。ざわざわと、ボス部屋に音が戻って来る。
 ただしそれは、私への悪意だったが。
「なんだよ、あいつ。庇ってもらっておいて、逆に責めるとか……」
「考えられねぇよ」
「こんなの酷過ぎる」
「おい、そんなやつ放っておこう!」
「……そ、そうだ! 早く行こうぜ!」
「もう近づかないほうが良いだろ、俺たちとは違い過ぎる」
「頭おかしいだろ」
「正直≪ビーター≫なんかよりも、コイツの方が――――」
 あまりに慣れ過ぎたそれらは、“私”や、私には届かない。
 いくらでも言えば良いのだ。どうせ、効きはしないのだから。削られるものは何も無いのだから。
 シヴァタが苦虫を噛み潰したような表情で座り込む私を一瞥し、リンドの腕を強引に引っ張った。だが当の本人は、彼の手を振り払い、私を蔑む目つきで見下ろし言った。
「……化け物め」
 これまた、ありふれた暴言をありがとう。お礼に綺麗な笑顔を向けてやる。
「あら、今更気が付いたの? 私は、ヒトの皮を被った化け物よ」
「……っ」
「それにあなたたちの中傷の言葉なんて、私にとって街中の喧騒と等しいわ」
 リンドはさっと顔を歪め、唇をギリギリと音がしそうなほど噛み締めた。
 だが、これ以上言い争うつもりは無いようで、バッと背中を向けると、乱暴な足取りで先刻入ってきたのと同じ扉へ向かっていく。その背中を、まるで親鳥について行くアヒルの子のように、リンドの仲間や他
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