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ソードアート・オンライン 舞えない黒蝶のバレリーナ (現在修正中)
第一部 ―愚者よ、後ろを振り返ってはならない
第1章
第10話 黒染めの化け物(後編)
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と近づいてきた。
怒るのだろうか。それとも、罵るのだろうか。けれど、どんなことでも甘受しよう、と思って顔を俯けると――――、予想外のことが起きた。
「……大丈夫。一緒に街まで帰りましょう?」
 頭の上に、あたたかい手が乗せられた。優しく、慈しむように、ゆっくりと私を撫でる。じんわりと、かわいた何かに染み込んできた。
 そして、彼女もしゃがみ込んで私と目線を合わせる。茶色の瞳の中に、私の姿が映った。
「私はアスナ」
 すっと、躊躇いなど感じさせない手が差し伸べられてきた。
 真っ直ぐで、よどみのない光。
 どうしてこの世界には、こんな人たちが多いのだろう。
 あんなに動かなかった腕を持ち上げ、“私”は、吸い寄せられるようにその手を握った。
 小さくつぶやく。
「……キカ、です」



*   *   *



 迷宮区を出て、フィールドをアスナと連れ立って歩く。やはり暗くて閉鎖的な所よりも、風が吹き抜ける外の方が気持ちがいい。
 そんなことを思いつつ、途中モンスターと遭遇しながらも、彼女と話しながら歩いていた。そして、話題は先ほどのこと――――と言ってもほぼ愚痴りだが――――に移り――――、
「……って、キカ、その男がデュエル申請を受諾していたらどうしていたのよ!」
「……どうって……、開始後すぐに、リザインしていたわよ」
 当然でしょう、と付け足すと、アスナはポカンと口を開け、呆れたのか深いため息をついた。
「それ、すごく怒るんじゃ……」
「最初から、“怒りを買うこと”が最終目的よ。別に戦うことではないわ。……むしろ、それで頭に血が上ってくれた方が、達成されたと言えるもの」
 彼女の綺麗な眉が寄せられる。
「あなたねぇ……」
 また一つため息をつき、そして何か言おうと口を開きかける。 私はそれをすばやく手を動かし、遮った。
 これ以上続けると、彼女のお説教が始まりそうだった。それはさすがに面倒だったので、聞こうと思っていた話題へ無理やり方向転換する。
「……そ、そういえば、あの黒い男の子の名前、なんて言うのかしら?」
「え?」
 虚を突かれたのか、アスナが目を丸くする。しかし、すぐに訝しむような表情になった。私はそれを見て、慌てて真顔で手を振りながら、
「別に何かしようってわけじゃないわよ。あの男の子、ずいぶん肝が据わっていると思ったから……」
「それ、キカが言えるようなことじゃないでしょ」
 もう、と言いながら、軽くこちらを睨んでくる。やっぱり無理があったか。
 だが、出来れば “彼”のこちらの世界での名前を知っていた方が都合がいい。彼とパーティを組んでいたアスナなら、十中八九、……というか必然的に知っていると思うのだが。
 しかし、ゴリ押しはしたくない。どうしようか、と思いなが
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