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ソードアート・オンライン 舞えない黒蝶のバレリーナ (現在修正中)
第一部 ―愚者よ、後ろを振り返ってはならない
第1章
第10話 黒染めの化け物(後編)
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のコレは何だ。厭われることは慣れているのに。
 ――――ごめんね。約束、守れそうにないや。
 せり上がってくるコレは何だ。私は、こんなもの知らない。知りたくない。だから分からない。分からなくて良い。
「やだ……もう、なんで」
 私の中で何かが暴れまわる。肉を内側から引っ掻きまわされる。
 痛い。
 理由なんて、原因なんて、何も無いはずなのに。
 いたい。きもちわるい。……いたい。
 服の裾を鷲掴む。ぐしゃりと皺が寄っているのが分かるが、気にすることなんて出来ない。
 ただ、痛みを紛らわせたい。胸の中の暴風雨を止ませたい。その一心で、未だぎこちない動きをする手へ無理やり力を入れる。
 これ以外に、やり方なんて知らなかった。唇を噛み締める。
 私は、荒れ狂うものを収める糸口をつかめないまま、ただやり過ごすために、“私”から目を逸らした。

「――――あなた」
 澄んだ、鈴のような声が飛び込んで来た。全く予想していなかったそれに驚きながら顔を上げ、そちらに視線を向ける。
 栗色の髪が、さらさら、きらきらと揺れていた。光を弾いて、瞬いていた。
 息を呑みながら、突然現れたその少女をまじまじと見つめる。
 もう、この場に居た人たちは全員出て行ったと思っていたのに。すばやく目を動かし時刻を確認すれば、あの集団がいなくなってからそれほど経過していなかった。体感時間的には、ずいぶん経っていたのに。
 予定外だ、これは。まさか、まだ人が居たなんて。
「…………あら? フェンサーさん、まだ残っていたのね。黒い人と一緒に、2層へ行ったと思っていたのに」
  彼女の首が、ゆるゆると横に振られる。
「いいえ、私は行かなかったの。……でも、どうしてあなたは一人で――――」
 流れていく視線が、私の隣に転がる弓を見て止まった。端正な顔が、ひそめられる。私はそれを認め、軽く笑みを作ってから、
「別に嘘を言ったわけではないのだけれど、彼らにちょっと教えてあげたのよ」
「教えるって……、あなた、何を」
 ああ、なんて滑稽なのだろう。笑えてくる。

「“ディアベルを殺したのは私です”、って」

 さらりと、しかしいたずらっぽい色を混ぜて言った。けれども、ますます哀しそうに歪められてしまった。どうしたのだろう。
 それからしばらく、何かに迷うように彼女の目線が動いた後、小さな、つぶやきのような声が聞こえた。
「……どうして」
「責める対象を間違えていたからよ。私は、ただ修正しただけ」
  淡々と、事実を口にする。
 そう、彼らは嫌悪を向ける対象を完全に誤っていた。ディアベルが死んだ責任をベータテスターに押し付け、愚かにもたった一人の少年を責め立て悪者にし、満足しようとしていた。その姿があまりにも馬鹿らしかった。無様だったのだ。

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