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ソードアート・オンライン 舞えない黒蝶のバレリーナ (現在修正中)
第一部 ―愚者よ、後ろを振り返ってはならない
第1章
第9話 黒染めの化け物(前編)
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わしたのは、会話とも呼べないような言葉だった。
『本当の兄じゃないくせに』。
 絞り出したような、けれどはっきりと拒絶の意志が込められた声だった。それが、重く俺に圧し掛かっている。鈍色の鎖が、両足に絡みついている。事実が彼女の言葉によって形を成し、俺を縛る鎖となっていた。
 あの時の彼女の表情は解らない。それは、紅葉が背を向けていたせいでもあるし、たとえこちらを向いていたとしても、俺は目を逸らしてしまうから。
 いつも彼女の瞳は、何かが混じり合い、溶け込み、押し込んだような色を宿している。とても昏くて、重い。痛くて、冷たい。4年前あの日と同じようで、違う瞳。
 あの目はもう、ずっと変わらない。俺が変えてしまった。壊してしまったのだ。
 それを俺は、直視出来ない。紅葉の目が怖くて、声が恐ろしい。紡がれる一言ひとことに、足がすくむ。
 紅葉の存在自体が、俺の罪の証だった。だからこそ、一瞬でも視界に入ってしまうと、精髄反射で目を覆ってしまうのだ。
 ……彼女をそんな風にしてしまったのは、他でもない俺だから。

 彼女は、自分ではおそらく否定したかったのだろうが、それでも周りからしてみれば“天才”という言葉に尽きていた。剣道を強いてきたあの叔父を、その才能で黙らしてしまうことが出来るほどに。
 それは底を見せることが無く、バレエはもちろんのこと、絵画、演劇……、そして弓道と、幅広くやってのけていた。弱点と言えそうだったものといえば、唯一苦手だった歌唱だろうか。
 剣道も、よくスグと一緒に立会いをしていた。こちらも、どちらかというとスグの方が優勢だった。まあ、実力的にはどっこいどっこいだったと思うが。
 ただ、紅葉は剣道よりも弓道の方が得意のようだった。最初は叔父が、芸術ばかりに才能を目覚めさせる彼女を見て、泣く泣く伝統武術をやらせたいがためにほぼ強制的にやらされていたことだったのだが……。それがもう、彼女の気質とぴったりとはまり込んでしまったのだ。
 見ている側が恐怖すら覚える集中力。矢を放つ一瞬まで、頭の天辺から足の爪先まで張り巡らされる揺らがない緊張感。
 長い黒髪を結いあげた姿は、凛々しく輝いていた。
 ――――その光を、俺はみすみす踏みにじってしまった。
 その事実と、己の夢の中にすら出てきた、輝いていた頃の思い出。今の俺はその狭間で白と黒が混じり合い、とぐろを巻きながら、静かに、しかし確かに沈んでいく。
 これじゃあ集中できるわけがないし、この後が危ない。最悪、周りに迷惑をかける。
切り替え追い出すために強く目をつぶった。そして、息を深く吸い――――、
「何、ボーとしているの?」
 ピンと張られた声。俺の体が跳ねた。反射的に振り返りながら、半歩後ろに下がる。しかし、すぐ目に飛び込んできたのは、優しげな栗色だった
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