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ソードアート・オンライン 舞えない黒蝶のバレリーナ (現在修正中)
第一部 ―愚者よ、後ろを振り返ってはならない
第1章
第5話 君の瞳、僕の瞳(後編)
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この場所まで来たのか。
そういえば、私が彼の姿を見た時、ネージュは息を弾ませていたではないか。まさか、走ったのか。何故? 時間を割き、危ない橋を渡り、それでもここへ来る。どうして? そこまでの理由が、ここにあるというのか。
ネージュは、一体、何を――――。
「……会いたかった、から」
誰に、とは問えなかった。ひゅっと、喉を空気が通り抜ける。信じられない気持ちで、彼の宝石のような輝きを放つ蒼を見詰めた。
黄金色の青年は、じっと私を捕えていて。それが、聞くまでもない答えで。
「君に、……キカちゃんに、会いたかったんだ」
困ったように笑いながら、しかし晴れ晴れとした口調で、一片の迷いもなく言い切った。それは、私をフリーズさせるのには事欠かない。茫然としたまま、彼の言葉に耳を傾ける。
「もう今日は諦めてた。でもそれでも、……君が居なかったとしても、ここに来たかった。会いたかったんだ。明日何があるか分からないこの世界で、少しでも時間を削りたくなかった」
たった、それだけの理由で。こんなにも、必死に?
「……馬鹿じゃないの」
「うん」
「そんな、いつでも会えるじゃない。またしつこく私に会いにくればいいじゃない。……“明日”なんて考えないで、今を考えなさいよ」
「うん、そうだね」
クスクスとおかしそうに笑い声を上げる。私は呆れてしまって、けれど憎めないその純直さが傍にあることに安心した。
ふっと、表情が緩む。
ああ、やっぱり、あなたの2つの瞳はとても綺麗だ。
「ネージュが無事で、本当に良かったわ」
私の目と、彼の目が交わる。その瞬間、ネージュのそれが驚いたように見開かれた。
「……やっぱり、来て正解だった」
ふわり、とその柔和な表情をさらに柔らかく崩して笑った。
「やっと、僕の目を見て笑ってくれたね」
毛布がバサバサとはためく。黄金色の髪の毛が舞って、私の髪の毛もなびいていた。あんなに埋め尽くしていた嫌な感じは、もうどこにもない。
「何よ、それ」
自然に弧を描く口元が自分でも不思議だった。
「あなたって、本当におかしな人」
真っ暗な草原を照らすように、2人分のささやかな笑い声が夜空を包んだ。いつの間にか重くて厚い雲はどこかへと流れ去っていて、宝石たちが瞬きを繰り返している。
私はそれを肌で感じながら、穏やかで、ゆったりとした時間に、そっと体の力を抜いた。
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