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ソードアート・オンライン 舞えない黒蝶のバレリーナ (現在修正中)
第一部 ―愚者よ、後ろを振り返ってはならない
第1章
第5話 君の瞳、僕の瞳(後編)
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僕も、楽しくてしょうがないんだ」
 いつもよりも低いトーンの声が空気を震わせる。ああ、と私は目を伏せた。
「キカちゃんと一緒に居ると、すごく楽しくて。不安も、疲れも忘れられて――――」
「だったら、その日々をあなた自身の手で壊さないで」
 私の、時間を壊さないで。
 ……認めよう。認めてしまおう。
 私も、確かに楽しいと感じていた。
 幸歌や慎一と歩いた夜の帰り道と重なる。彼らと過ごす居心地の良さと、ネージュとの時間は同質のものだった。何がどうしてこうなったのかは分からない。けれど多分、ネージュの眩しさが無視出来なかったのだ。
「あなたは、笑っていればいいのよ」
 彼は雪だ。白くて、目が痛いくらい眩しい。手の平に舞い落ちると、スウと水へ変わる雪だ。一点の黒も無い。笑顔も、その口くちから紡がれる言葉の一つひとつでさえ、優しく体に触れる白い結晶――――。
「……あ」
 “ネージュ”。その、名前は。
 パッと顔を上げ、その整った顔を凝視する。
「もしかして、あなた……」
「な、何? なんか付いてる?」
「……いえ、何でもないわ。気にしないで」
「う、うん」
 戸惑うネージュに苦笑いをし、背中を軽い調子で叩く、ポンポン、と。
「ネージュ、ひとつだけ言っておくわ」
「ん」
 軽く打っていた手を止め、彼の上着をぎゅうっと握った。

「死んだら許さない」

 ネージュが息を呑んだのを感じる。けれど顔を上げることは出来なくて、視線は彷徨った。彼の上着から手が離せない。
「……許さないわ」
 焦りにも似ていた。心臓が、突き破りそうな勢いでバクバクと鳴る。手はやっぱり離せない。……力を抜いたら、彼がフラリとどこかへ消えていきそうで。儚く溶ける雪のように。
「死なないよ」
 やがて、すっと伸びてきた手が私の両手を包む。いたずらっぽい笑みを浮かべた。自嘲の笑みではない、綺麗な、雪白の笑顔。
「僕は死なない。キカちゃんに嫌われたくないからね」
 そうして彼は、約束だと、必ず守ると、力強い声音で口にした。



 ――――そう、言ったのに。
 次の日、いつもの時間になっても彼は現れなかった。
 空が藍色のベールに包まれても。光り輝く砂が散りばめられても。NPCである老人の家から、灯りが消えても。
 私は嫌な予感を押さえつけながら、そろりと時刻を確認する。痛いほど寒いのに、冷や汗が伝った。
 ……別に、会う約束をしているわけではない。たまたま早く帰った私が、ふらりと立ち寄ったネージュと会っているだけ。約束など、交わしていない。強制しているわけでもないのだ。そうだ。そもそも、毎日ここへ来る彼がおかしい。
 だからきっと、彼にも休みは必要だろう。私も、一人になる時間が欲しかったのだ。会いたくなくても、ネージュが来る
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