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ソードアート・オンライン 舞えない黒蝶のバレリーナ (現在修正中)
第一部 ―愚者よ、後ろを振り返ってはならない
第1章
第5話 君の瞳、僕の瞳(後編)
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 夜の冷たい風が吹く。しかし、建物からは温かな光が漏れており、雰囲気を和らげていた。私はそれにささやかな安堵を抱きながら、隣に立つ青年を促す。
「さあ、街に着いたわよ。どこに行けばいいのかしら。案内してちょうだい」
 しかし、彼は私の顔を見つめ返すばかりで何も言わなかった。じっと、こちらを食い入るように見ている。居心地の悪さが勝り、私はパッと視線を外した。
 私の声が聞こえなかったのだろうか。ちょうど夕食の時刻が迫っている。そのせいか主街区は人がごった返していて、人々の話し声が入り混じり溢れかえっていた。きっと、喧騒に呑まれて、聞こえづらかっただけなのだろう。
「ちょっと、ネージュ、聞こえてる?」
「……あ、ああ、うん」
「もう、しっかりしてちょうだい。ちゃんと連れて行ってよ」
 相変わらずボーっと私を見てくるので、彼に苦笑を向けながら背中を軽く押した。ネージュはそれに弾かれたように体を跳ねさせ、先ほどから幾度となく見てきた笑顔よりもいくらかぎこちない笑顔を浮かべる。
「あ、ごめんね、そうだね。……こっちだよ」
 言うやいなや、何の前触れもなく腕が掴まれた。グイッと強く引っ張られ、そのまま脇道に入る。薄暗く、明らかに人気が無い。しかも向こうから人がくれば、両者ともにギリギリまで壁際に寄らなければすれ違えないだろう。それほど細くて高い壁に囲まれた道を、ネージュに腕を引かれズンズン進む。人のざわめきが、どんどん遠くなった。
 訝しみながら彼の後ろ頭を見詰める。さっきまでの穏やかな彼の雰囲気が、偽りのものだったかのように感じられてしまった。つーっと、暑くもないのに何かが頬を伝い落ちる。
 あんなにしゃべっていた彼のその口からは、今は何も出てこない。二人分の足音だけが不気味に響いている。
「ちょっと……、ねえ!」
「近道だから」
 ざわりとしたものが背中に走り、非難の声を掛ける。けれど返ってくるのはあまりに短くて。とっさに右の腰に下がる剣を掴もうと手が伸びる。だがすぐに、街中ではそれほど意味を成さない事を思い出した。しかも、そもそもネージュに掴まれているのは左腕だった。思わず歯噛みする。しっかりと力が込められた手は、この狭い空間で振りほどけそうにない。ならばと、空いている右手の指を振った。メッセージ作成の画面を開く。宛て先を唯一フレンド登録している“彼女”にし、あとは送信ボタンを押すだけという状態まで持っていった。きっとこれを受け取った彼女ならば、その情報網で何とかしてくれるだろう。だが、まだだ。もう少しだけ。
 私は短く息を吐き出すと、ウィンドウから指を離して、視界を塞ぐ背中に目をやった。作成したメッセージを破棄出来たら良い。そう思いながら、少し声を固くして再び声を投げる。
「ネージュ?」
「どうしたの?」
「……どこに行くのか
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