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ソードアート・オンライン 舞えない黒蝶のバレリーナ (現在修正中)
第一部 ―愚者よ、後ろを振り返ってはならない
第1章
第4話 君の瞳、僕の瞳(前編)
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のよ」
 ――――紅葉ちゃん。
 そう呼ぶ声が、脳内で青年のそれと重なる。
 彼も、この青年のように変わった人だった。気が少々弱いが、友達思いで優しく、物腰が柔らかで。いつも、幸歌と一緒に私を支えてくれた。きっと彼……、慎一もこの世界に来ていたのなら、ネージュのように話しかけてきただろう。こんなにふんわりとはしていないだろうけれど。
「良いと思うんだけどな、“キカちゃん”」
「まだ言うの? もう、だからやめてちょうだい。私帰るわよ」
「わあああっ!? ご、ごめん!」
「……冗談よ。ここまで来て引き返すわけがないじゃない」
「ホント?」
「しつこい。そうだって言っているでしょう」
「……よ、よかった……」
 ネージュが、吐息とともに安堵の言葉を漏らして相好を崩す。ラピスラズリの目が、柔和に細められた。その吸い込まれそうな色に、息が止まりそうになった。パッとすぐさま視界から外す。
「別に、そんな焦るような事ではないじゃない」
「――――……に決まってるじゃないか」
「は?」
 ぼそり。
 ふて腐れたような口調で何やら返された。けれども聞き取れなくて、私は彼の方へ顔をやり視線で問いかける。しかし、彼はもう一度口にするつもりはないらしい。曖昧な笑みを浮かべている。
 馬鹿らしい。私はそれ以上追及しようとはせず、その代わりに少し棘のある声音で、
「あなた、何だか私を全く疑っていないようだけれど。今日初めて出会った人間に、どうしてそんな事が出来るのかしら。まったく、理解に苦しむわ」
 突き放すような毒を放る。怒り出したとしてもおかしくない。わざわざこういう言い回しを選ぶのだから、私は根っからの冷酷な人間だ。
 さてどんな反応をするか。怒りか呆れか、それとも傷つけられたとでも言わんばかりの表情か。適当に予想をしながら、チラリと様子を窺う。
 声を失った。
「……キカちゃん」
 そこにあるのは、憤りでも悲しみでも苛立ちでもなく。紡ぎだされた私の名前には、刺々しさも何も含まれていなくて。
 ただただ私を見透かすように静かに笑う、青年が居た。
「……ど……、して」
 そんな真っ直ぐに他人を見ることが出来るのか。
 ヒトほど、複雑で面倒で憎たらしくて厭らしくて浅ましい生物は他にいない。負の感情で溢れかえるコミュニティーは存在しない。
 思い出されるのは、もう何年も前から向けられていた、蔑みと嫉みと――――とにかくよくないものが混ざりに混ざった、身体に纏わりついてくる不快な視線。私をあたたく包むソレなんてごく少数で、やっと手に入れられるものだった。だから私は“信頼”なんて言葉を、とっくに自分の辞書から消していたのに。
「なんで、そんなに信じられるの」
「僕は、疑いたくないんだ。その人の言葉を、……心を信じて、寄り添っていた
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