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ソードアート・オンライン 舞えない黒蝶のバレリーナ (現在修正中)
第一部 ―愚者よ、後ろを振り返ってはならない
第1章
第3話 狂っているモノは何?
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で……」
「え?」
「……置いて、いかないで……」
か細い声だったが、今度はしっかりと聞こえた。私はぎゅっと唇を噛み、ほろほろと涙を流すサチの手を握る。
「……ごめんなさい、サチ。一緒に行きましょう」
「…………」
無言で俯くサチの手を引いた。幾度も繋いだその手がいつも温かかったが、今日は氷みたいだ。
「……かえりたい」
「――――ッ」
うわごとのように落とされたその言葉。それは矢のようで、私を鋭く射抜き、縫い止めた。サチの手を握る手に、思わず力を込めてしまう。
この場に居るほとんど全ての人が、同じようなことを呟いている。だが、私にとって彼女の言葉は重みが違った。胸が締め付けられ、呼吸が苦しくなる。
「……サチ」
「なんで……、こんな。どうして……っ」
「サチ、落ち着いて」
「いやだ、かえりたい。こわい、怖いよ」
「サチ」
足を止めて振り返った。涙でぐしゃぐしゃになったサチの顔を認め、一層胸が痛む。
「……きか?」
「サチ、大丈夫よ」
細い体を掻き抱いた。周りの目など気にするものか。どうせ、正常な思考をしているものなどほとんどいないのだ。
「キカ……」
私の肩口が濡れていく。それでも、彼女を離さなかった。……離せなかった。
このまま体がひとつになってしまえ。呼吸も、心臓も、体温も、何もかもひとつに。サチを、大切な親友を支えられるなら、どんなものでも惜しくない。
「だいじょうぶ」
私が、この世界を終わらせてみせる。
たとえそれが、私にとっての“死”だとしても。彼女のためならば、惜しくない。
私は、この世界に“ホンモノ”を望んでいた。“もう一つの現実世界”にしたかった。しかし、そこには大きな壁があるということも理解していたのだ。
“生”があるならば、“死”も存在する。それは至極当たり前のことだ。生と死は、絶対に切り離せない関係にある。
だが、ゲームである限り、これは適用されない。存在しないのだ、本物の“死”というものが。意識が消え、肉体が滅ぶ、その終わりが“ゲーム”には存在していない。これでは、いつまで経ってもホンモノには成り得ない。永遠にニセモノのままだ。
死を迎えたとしても、生き返ってしまう。何度も、何度でも。それはあまりに重要性の低い命ではないか。本物の世界にしたいのならば、それは在ってはならないことだった。“現実世界”ならば、死神に見初められた時、あっけなく生を終えるというのに。ニセモノの世界には無い、本物の死が待っているというのに。
――――しかし、しかしだ。この世界……、≪ソードアート・オンライン≫には、その死神が存在しているというではないか。
……ああ、それはなんて、なんて素晴らしいことなのだろう。
これで私は、本当の意味で“生きること”が出来る
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