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ソードアート・オンライン 舞えない黒蝶のバレリーナ (現在修正中)
第一部 ―愚者よ、後ろを振り返ってはならない
第1章
第3話 狂っているモノは何?
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 地を這うような叫び声の大合唱。怒号や嗚咽も混じり合い、ほんの一時間前まで明るい声で満ちて、穏やかだった場所と同じ空間とは思えない。
 冷たい石畳の上で体を丸め込んでいたり、虚空を見詰め茫然と立ち尽くしていたり、あるいは神に祈りを捧げるかのように天を仰ぐ人々を横目で見やりながら、私は小さく『馬鹿らしい』と呟いた。
 そんな事をしていても、何も変わらないというのに。自分で歩かなければ、どうにもならないというのに。
 冷めた気持ちを吐き出すかのようにため息をつきながら空を見上げた。血を垂らした如く赤く染まっていたそこは、今はいっそ清々しいほどの青空だった。しかしあと数時間もすれば、夜が訪れる。この“現実世界”での、初めての夜が。
「ねえ、キカ」
 花壇の隅に腰かけていた少女から声が掛けられた。親友の幸歌――――否、サチだ。なるべくなら彼女とはここでは会いたくなかった。……救いだったのは、同じく大切な友人である慎一までもが巻き込まれていなかったことだろうか。
「どうしたの? サチ」
 優しい声音になるよう気を付けながら問いかける。彼女は私にとって特別だ。絶対に失いたくない。
 だからこそ、≪ソードアート・オンライン≫を高校の部活仲間とプレイするのだ、と事前に彼女から聞いていた私は焦った。私は良い。赤の他人が死のうがどうなろうが構わない。しかし、彼女だけは。私の掛け替えのない、親友の幸歌と慎一だけは……。
 慎一がゲームでよく使っているプレイヤーネームでインスタント・メッセージが送れなかった時は、心の底から安心した。発売日には買わないと明言していたが、どうしても不安だった。あとは、幸歌がログインしていなければ良い。そう、思っていたのに。
「……もみじ……」
 大好きな少女の姿に、私は運命というものを呪ったのだった。
 “ホンモノ”になった世界を、この時になってようやく呪ったのだった。
「サチ」
 紙のように白い顔に、両手をそっと添える。冷たい。指先で撫でながら彼女の存在を確認した。
「サチ、部活の友だちとは連絡が取れたの?」
「……うん」
「そう、分かったわ。……私が様子を見てくるから、あなたはここの花壇に座って待っていて」
 おそらく、パニック状態に陥っているこの街で誰かと落ち合うのは大変だろう。ただ幸いにもサチが、友人たちが使用する予定のプレイヤーネームを覚えていたため、連絡を取り合うことが出来た。しかし、彼女のこの精神状態では歩けない。私は何とも思っていないが、狂気に包まれた人々の間を縫って進むのは彼女のためにならないだろう。……そう思い待っているように言ったのだが、サチに止められてしまった。
 「どうしたのか」とゆっくりとした口調で聞き返してみたが、答えは無い。私は訝しみ、彼女の前に膝を付く。
「サチ?」
「……ない
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