暁 〜小説投稿サイト〜
逆さの砂時計
Side Story
少女怪盗と仮面の神父 17
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笑顔。
 彼女の隣には、素敵な旦那様と可愛い子供が居て。
 仲良し一家はミートリッテが贈った物を大切に使ってくれるのだ。

 その時のミートリッテは、ネアウィック村に居ても居なくても良い。
 でも、名前はアルスエルナ王国の各所に知れ渡っていると嬉しい。
 収入の大半は材料費と孤児院に回して、手元には生活費があれば十分。
 そして……

「夕飯が出来たわよ、下りてきて」

 階下からハウィスに呼ばれ、妄想時間は終わりを告げた。

「はーい!」

 ミートリッテは慌てて飛び上がり。
 ノートをバッグにしまって、部屋を飛び出す。
 
「あ。本当にちゃんと作ってる」
「私だって、やればできるのよ」

 頬を膨らませたハウィスと向かい合って着席すると、テーブルの上には、具が少なめなクリームシチューが一皿ずつ、小さなバターロールが一つずつ用意されていた。
 遅い夕食だけあって、コクのある香りに触発されたお腹がきゅるる……と切ない声を上げる。

「「いただきます」」

 二人で同時に手を合わせ。
 クリームのまろやかな舌触りと、バターの甘く奥深い香りを堪能する。
 パンを千切ってシチューに浸せば、これはこれで贅沢な食べ方。
 食事は人を幸せにしてくれる一時(ひととき)だと、ほっこり気分になる。
 ……朝食の惨事は例外だ。

「「ごちそうさまでした」」

 食べ始めが同時なら、食べ終わりもほぼ同時で。
 後片付けは、ミートリッテが進んで請け負った。

「はいこれ。デザートよ」
「で、デザート!?」

 食器全部を片付けたところでハウィスがミートリッテに差し出したのは、手のひらに乗っかる大きさの透明な器に入ったオレンジゼリー。
 信じられない思いで受け取ると、果実の瑞々しい色合いがぷるぷる揺れて唾液を誘った。

「ハウィスが作ったの? これ?」

 デザートなんて、二人にとってはそうそうお目に掛かれない嗜好品。
 じぃっと見つめるミートリッテに、ハウィスはまたも苦笑い。
 早く食べなさいと、(さじ)を手渡した。

「ありがとうー!」
「どういたしまして」

 きちんと椅子に座り直し、ちょっとずつ、しっかり味わう。
 皮も使っているのか、甘いだけじゃなく、ほんのり苦味もあって、果実の良さが前面に表れている。
 大人向けの味だ。
 これは美味しい。

 そうして全部を食べ終わり。
 突然、鼻を抜けた香りが気になった。
 甘い、甘い香り。

「……ハウィ、ス……? これ、……は……」

 昨夜、侵入者がミートリッテの口元に押し当てた布。
 その布に染み付いていた、あの匂いだった。



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