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逆さの砂時計
Side Story
少女怪盗と仮面の神父 17
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 クローゼットを覗いても、ベッドの周辺を探しても、見当たらない。
 ミートリッテに与えられた簡素な部屋を彩る唯一の華。
 くらげタン人形のくータンだけが、室内のどこにもない。

「ねえ、ハウィス。くータンは出張中?」
「……くータン?」

 バッグをベッドの横に残して、再び一階に居るハウィスを訪ねてみる。
 彼女は調理台の掃除中らしく、台の上に布を滑らせながら首を傾げた。

「くらげタン人形のくータン。洗ってるんじゃ……ない、の?」

 (いぶか)るミートリッテに、ハウィスは目を細めて顔を逸らす。

「……ええ、そう。厚手の服やカーペットとかと一緒に洗って、今は浴室で乾かしてるところなの。寂しいと思うけど、今夜は我慢してね」
「いや、無いと眠れないとかじゃないから。あるなら良いの。うん」

(指輪を奪われたせいで、少し過敏になってるのかな。一瞬、くータンまで盗られたのかと思って焦っちゃった。さすがにそれはないか)

 くータンは、ミートリッテが自作した人形第一号だ。
 手間隙を掛けた分の愛着はあるが、金銀財宝に並ぶ価値なんかない。
 盗むだけ無駄だろう。

「ミートリッテ、夕飯はまだでしょう? 一緒に食べましょうか」

 納得して二階へ戻ろうとした背中に、落ち着いた声をかけられた。

「へ? ハウィスも、まだ食べてなかったの?」
「一度掃除を始めたらなかなか止められなくて。ああ、今日は私が作るわ。任せて。……そんな目で見なくても大丈夫よ。今度はちゃんと作るから」

 心配が表情に出ていたらしい。
 苦笑いで、ちょっと待っててと、調理場を追い立てられてしまった。
 仕方なく二階へ戻り、ベッドの上で仰向けになって、出来上がりを待つ。

 ふと、バッグの中に入れておいた簡易本を取り出し、中身を見直した。
 市民にはまだお高めな白紙を数十枚重ねて紐を通した、自作のノート。
 そこにあるのは、怪盗を始める少し前に知った世界。
 ハウィスにも内緒で描き続けた夢。
 いつか南方領全体の経済が良いほうに安定して、怪盗が不要になったら。
 本格的に、この道を進んでみたかった。

 教会内部に興味があると言ったのは、指輪の存在を除いても嘘ではない。
 そこにも確かにあったし、実際に触れてみて、内心は感激していた。
 こういう物を自分の手で作り出せたなら、と。

 だが。
 顔の上で静かに閉じたノートの中身が実現する可能性は、もう無い。
 その機会は、海賊の襲来によって永遠に失われた。
 自らの悪行が招いた結果だ。

「ハウィスに……あげたかった、な」

 自分で壊してしまった未来を胸に抱えて、横向きに縮こまる。
 目を閉じて思い描いたのは、何年後かのハウィスの
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