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逆さの砂時計
Side Story
少女怪盗と仮面の神父 17
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 見ていた限り出入りする客の姿はなかったし、こんな日に収益が見込めるとは思えないが、酒場は普通に開店していた。
 なら、ハウィスも酒場の中に居た筈。
 今の家は、無人でなければおかしい。

 瞬時に思い至ったのは、昨日の、ミートリッテを眠らせた侵入者。
 考えてみれば、あの侵入者と遭遇したのも、このくらいの時間だった。

(男が土足で何度もハウィスの家に上がり込むなんて……赦せない!)

 ミートリッテは素早く玄関扉に背中を預け。
 バッグに入れておいた物差しを左手で取り出し、ぎゅっと握る。
 右手で扉の取っ手を掴み、屋内の物音を探りながら突入の時機を計った。

(話し声はしない。でも音が聞こえる。家具か物を動かしてる? なら!)

 ヤツの手は塞がってる。
 武芸に()けた()()が相手でも、突然の襲撃なら一瞬の隙を衝けると読んで扉をガバッと開き、一気に踏み込む。
 無言のまま低姿勢で走り、階段横に屈んでいる対象の影を見つけた瞬間、その影の頭上へ物差しを掲げ、

「…………っ!?」

 急停止させた。

「? ミートリッテ?」

 扉が開く音に驚いたのか、勢いよく振り返った両目は、見慣れた群青色。
 いつもは肩の辺りで巻いている髪が、後頭部で団子状にまとめられ。
 ヨレヨレの上下服は(ほこり)で汚れまくって、元の白が判らなくなっている。

 ……掃除婦姿のハウィスだった。

「な、なんで……? 仕事はっ?」

 ミートリッテが両手を背中に隠して一歩退くと。
 首をこてんと傾けたハウィスは、少しの間を置いて「ああ」と頷いた。
 自身が不審者扱いされたことに気付いたのだろう。
 立ち上がりながら、「驚かせてごめんね」と謝る。

「今日はお休みを貰ったのよ。家の中を整頓したくってね。ミートリッテの部屋も一通り掃除しておいたから、多少は落ち着けると思うんだけど」
「そ、掃除って…… あ」

『なにか……家の中から物が失くなってたり、壊れてたりしない!? どこかいつもと違う所はなかった!?』

 ハウィスは、今朝のミートリッテの動揺を静めたくて、家の中をひっくり返していたらしい。
 冷静に辺りを見渡せば、重なり合っていた物や奥のほうにしまわれていた小箱などが、すべて一目で見分けられるように配置変えされていた。

 ()()()()()()()()()()()()()()()

「っ……ご、ごめんなさい! 私……っ」

 ハウィスに物凄く……想像していた以上に、心配をかけていた。
 自分の軽率な言動で、大切な仕事に穴を空けさせてしまったのだ。
 
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