第二章
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「わしもだ」
「お師さんもですか」
「そうだ、まだ演じている」
「お師さんは藤娘については」
「当代一とか」
「言われてますが」
「いや、それはただ言われているだけでだ」
それに過ぎないからだというのだ。
「まだまだだ」
「そうですか」
「ジャックさん、雀右衛門さんや歌右衛門さんはこんなものじゃなかった」
「お二人はですか」
「わしなんかまだまだだ」
それこそという口調での言葉だった。
「演じているわ」
「ジャックさんや歌右衛門さんは」
「わしから見ればな」
瞑目する様にしての言葉だった。
「藤娘になっていたな」
「演じているのではなく」
「道成寺でもそうだったがな、何でもだ」
「歌舞伎は演じるんじゃないんですね」
「なることだ」
その舞台の人物にというのだ。
「何でもな」
「私はそれがまだ出来ていませんね」
「それは御前さんが一番よくわかっているな」
「はい」
言った通りだ、先程自分自身が。
「本当に」
「そうだな、ただ」
「ただ？」
「自分でわかっているならな」
それならというのだ。
「わかっているな」
「はい、稽古ですね」
「これからもだ、そうしていけ」
「そして舞台でもですね」
「学べ、いいな」
「わかりました」
美津ノ助は確かな声でだった、師の言葉に頷いた。そうして実際に彼は稽古を続けていった。勿論他の演目のそれもしていた。
そしてだ、その稽古の中でだった。
ふとだ、彼は言ったのだった。
「何か」
「どうした？」
「見えた気がしました」
こう坂東に言った。
「何かが」
「はっきりとか？」
「いえ」
「そうか、しかしな」
「それでもですか」
「少しでも見えたらな」
それならとも言うのだった。
「そこからだ」
「じゃあここから」
「さらに励め」
稽古、それにというのだ。
「そうすれば確かに見える」
「そうなりますか」
「だからだ」
それでというのだ。
「いいな、どんどん稽古をやれ」
「これまで通りですね」
「そうだ、やっていけ」
「わかりました」
美津ノ助は強い声で頷いてだ、稽古をさらに続けた。そうして歌舞伎の世界自体にさらに入っていってだった。
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