第五章
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「厄介よ」
「寒さ以上に?」
「そうかもね」
そのことも否定しないのだった。
「覚えにくいから」
「成程ね」
「ええ、まあとにかく薔薇見ましょう」
まずはというのだ。
「奇麗なことは奇麗だし」
「君が一番好きな花だから」
「そうしましょう」
「うん、じゃあね」
スノッリもだ、ビクトリアのその言葉に微笑んで応えた。そしてだった。
二人で薔薇のコーナーに行った、そこには紅に白、黄色にピンクに紫とだ。様々な色の薔薇達があった。
その薔薇達を見てだ、ビクトリアは目を細めさせて言った。
「冬でも薔薇が見られることがね」
「いいんだね」
「ええ、植物園はそれがいいわよね」
「温室の中だからね」
「そうよね、それにね」
目を細めさせたままだ、ビクトリアはここで。
外を見た、すると。
外は銀世界だった、雪と氷で覆われている。何もかも。
温室のガラス一枚を隔てたその先の銀世界も見てだ、ビクトリアはあらためて言ったのだ。
「ガラス一枚向こうはね」
「うん、雪と氷ばかりだね」
「物凄く寒いね」
桁外れのだ。
「アイスランドの冬だよ」
「私の苦手な」
こうも言ったビクトリアだった。
「そのアイスランドの冬ね」
「そうだね、けれどこの中はね」
「暖かい温室で」
「こうして薔薇も咲いているんだ」
「そうよね、不思議よね」
「植物園はこうした場所だから」
まさにというのだ。
「外は雪や氷でも」
「中は暖かくてお花が咲き誇っている」
「そうした場所なんだ」
「イギリスにも植物園はあるけれど」
ビクトリアはその温室の中、様々な色の薔薇達を見回しつつ述べた。
「アイスランドだと余計に不思議に思えるわ」
「寒さが違うから」
「だからね」
「そうだよね、やっぱり」
「こんな寒いのに薔薇が咲いているなんて」
ビクトリアはうっとりとさえしていた、アイスランドの冬の寒さと雪に氷に対して温室の暖かさと花達の様々な色を見比べて。
「こんな素敵なことはないわ」
「そこまで気に入ってくれたんだ」
「こんないい場所があるなんて思わなかったわ」
本当にというのだ。
「アイスランドに来て三年だけれど」
「そうだったんだ」
「冬の薔薇ね」
くすりと笑ってだ、ビクトリアはこうも言った。
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