第一章
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人徳こそ
羽生クリーニングは儲かっているかどうか、アルバイトでこの店で働いている広沢優子は苦笑いでいつもこの質問に答えた。
「そう思う?」
「わかりやすい答えだな」
今回質問をした彼女と同じ高校に通う横山浩輔はこう返した。
「それはまた」
「赤字じゃないけれど」
それでもというのだ。
「ぎりぎりよ」
「赤字でも黒字でもないか」
「そう、食べてはいけてるし営業も出来てるけれど」
少し細めの目で四角い感じの顔でだ、唇は大きめで髪の毛は長く伸ばしていて後ろで束ねている。身体つきは肉感的だ。優子はその細めの目を少し苦笑いにさせて答えた。
「それでもね」
「儲かってないんだな」
「そうなのよ」
こう浩輔に話すのだった、彼のそのしっかりとした目できりっとした口元に見事な黒のショートヘアの顔を見ながら。お互い座って話しているが背は彼の方が一六〇センチの優子より十センチ高い。二人は自分達のクラスで浩輔の机の前で向かい合って座って話をしいているのだ。
「正直うちのお店経営はよくないわよ」
「正直に言い過ぎだろ」
「だって本当のことだからね」
こう浩輔に言うのだった。
「実際のところね」
「バイト料大丈夫か?」
浩輔も浩輔でだ、優子に問うた。
「本当に」
「ええ、ちゃんと出してくれてるわよ」
「それはよかったな」
「あとシフトもしっかりしてるし」
「過剰勤務とかないんだな」
「パワハラとかセクハラとかもね」
そうしたこともないというのだ。
「一切ね」
「いいお店か?」
「凄くね。店長さんもね」
その責任者もというのだ。
「凄くいい人よ」
「そうなんだな」
「けれどいい人過ぎて」
それで、というのだ。
「まけたりするしね、儲けの少ない仕事でも笑顔で受けたりして」
「儲からないのか」
「そうなの、ツケることも多いし」
「それでか」
「そうよ、儲かっていないのよ」
それ故にというのだ。
「お店がね」
「そういうことか」
「そう、事情わかったでしょ」
「よくな、いい人過ぎるのか」
「私のバイト料だってね」
優子へのそれもというのだ。
「いいし」
「そんなにいいのか」
「いいわよ、働きの割にはね」
このこともだ、優子は自分から話した。
「出してくれてるのよ」
「バイトの娘にもなんだな」
「儲かっていないのにね」
「よくそんなのでお店やっていけるな」
しみじみとしてだ、浩輔はここでこうも言った。
「お店が」
「ええ、赤字じゃないけれど黒字でもなくて」
「ぎりぎりなんだな」
「お店をやっていけて生活も出来てても」
それでもというのだ。
「儲かっていないのよ」
「いい人過ぎてか、何かな」
「何か
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