暁 〜小説投稿サイト〜
世界最年少のプロゲーマーが女性の世界に
9話 一夏戦
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に前に出るしかない。だが一夏は漠然とした危機感から必要以上に前に出ることを躊躇った。迂闊に前に出てしまえばそれは敗北以上の何かを失うような気がする―――。

 故に試合は膠着状態になる。前に出てきたところを『潰そう』とする鬼一。前に出ることに迷う一夏。
 2人とも距離を離さず離れずを繰り返して互いの様子を伺う。時折、鬼一が大きく踏み込み一夏に『誘い』をかける。が、隙を見せないように雪片を小さく振って鬼一を牽制しながら後退する。それに対して鬼一は表情と呼吸を乱さず自身も後退する。

 観客席も不気味なまでに静まり返っていた。
 2人の男性操縦者の戦い、彼女たちの大部分にとっては余興。自分たちよりも下の男たちがどんな風な無様な試合を見せてくれるのか、その程度の試合。そして、ごく一部の人間たちは興味と警戒、そして自分たちが超えなければいけない『壁』の高さを知るために来ていた。
 彼女たちのほとんど、この戦いは水面下でどのような進行をしているのかは理解していない。だが、見ているだけでも何かが異常だと感じ取っていた。その異常さを感じ取りながらもそれがなんなのかが解らないため、結果としてこの静寂が生まれてしまった。

 それは自分たちが体感したことのない理外の緊張感。

 何度目かの鬼一の突進。
 
 再度雪片で牽制して隙を見せないように後退する一夏。

 それを見て追撃はせず、合わせて後退する鬼一。

 気がついたら試合開始した直後と同じ位置に戻っていた。

 2人とも足を止める。

 暗い光を瞳に宿した鬼一は、どことなく苛立ちを感じさせる口調で一夏に呟く。

「……随分と、小賢しい戦いをしてくるんですね。一夏さん……」

 その背筋を凍らせるような、とても14歳が出したとは思えない冷え切った声に、雪片を握る手に力が入る。目線は鬼一から外すことが『出来ない』。一夏だって鬼一の戦いを見ているのだ。何をしてくるかわからない怖さ、相手を研究し、封じる強さ。それだけは一夏は理性で理解している。自分を徹底的に解剖し対策をとってきていることは容易に予想できた。

 今の鬼神はミサイルポッドもライフル羅刹もない。ブレードの夜叉とレール砲のみだ。それしか武装がないことも一夏は対策の内だと感じた。

「……」

 鬼一から発せられる突き刺すような冷たさに当てられてか、一夏は声を出さない。声を出せば飲み込まれそうな気がした。
 それを無視と受け取った鬼一は、僅かに顔をしかめる。

「……」

「……」

 それぞれの武器を向け合ったまま、2人の間に沈黙が支配する。

 唐突に鬼一が口を開く。目を僅かに見開いて端正な口が三日月に歪み、感情を一切感じさせない声で呟いた。

「……僕にあんまり、踏み込みたくない
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