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世界最年少のプロゲーマーが女性の世界に
9話 一夏戦
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「……もういい―――それだけで、もう、充分だ」

 カラン、と音を立てて心の破片が落ちた。

 視線を上げると2人の僕がいた。

 勝負の世界を遵守して いた『今』の僕と、そして忌名である僕の2人。……じゃあ、ここにいる僕はなんだ?

 2人はそれぞれ身体をどけ、今の僕は左手で、忌名の僕は右手で、道を指し示してくれる。

 それに縋るように1歩を踏み出そうとする。さっきまで身体は動いてくれなかったのに、今度はスムーズに動いてくれた。身体がすごい軽い。

 挑むように深呼吸をして、大地を踏み砕くようにして、最初の1歩を踏み出した。

 この1歩が、僕を崩壊させた。

 白い世界は崩れ落ち、2人の僕はそのまま奈落の底へ飲み込まれていった。2人は最後に何かを呟いていた。

 ―――あの2人は、勝て、と言わなかったか?

 自分の存在を燃やしかねないほどの業火。圧倒的な熱量が僕を焼き殺そうとした。人どころかあらゆる生命の存在を拒否する炎が僕に纏わりつく。あまりの熱量に鬼神も僕も焼き尽くされそうだ。

 全身が燃え尽きそうになる。

 足は燃え尽き、灰になりつつある。

 腕は皮が焼け、肉が焼け、骨が見えそうになる。

 胴体はもう内蔵なんて全部お陀仏になっているだろう。

 それに痛みなんてなかった。痛みを感じる必要なんてなかった。

 燃え尽きる。

 抵抗することなんて許されない。

 2人に導かれて踏み出したんだ。先に進まないといけないのに 、思うように進めない。

 視界が赤く染まる。前に進む。

 思考なんて必要ない。ただ前に進む。
 
 身体がどうなってもいい。がむしゃらに進む。

 心が少しずつ砕け始める。ひたすらに僕の戦う場所へ。

 それでも『勝つ、負ける』ことに比べれば些細なこと。この炎を超えて、あの世界へ。

 赤く燃えていた視界が何も映さなくなる。食いしばるために力をいれていた顎に感覚がなくなる。肺も喉も燃えてしまったのか、呼吸さえも出来ない。

「―――ふざ、けるな」

 光を映さなくなった視界に光が戻る。炎に焼かれていた身体が炎を飲み込む。炎を宿した身体はその熱量を武器にして。

 たった1つの思いを胸に、渾身の力で踏破した。

――――――――――――

 アリーナに舞い戻る。炎はなくなっていた。白黒のモノクロの世界から色鮮やかな世界に切り替わる。その情報量に頭がパンクしそうだ。視界には僕の対戦相手が立っていた。敵まで約30メートル。白式、鬼神の速度なら2秒もいるまい。

 思考が冴えている。己の状況は把握出来ている。身体的疲労は限界を超え、強制的にシャットダウンされるまで残り2分弱。シールドエネルギー残量435。ミ
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