暁 〜小説投稿サイト〜
世界最年少のプロゲーマーが女性の世界に
9話 一夏戦
[23/32]

[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話
大切な場所が静かに消えた。いや、大切な場所とはなんだったのか。そんなことも思い出せない。戦うということを教えてくれて、僕が何かを誓った場所だったとは思う。でも、僕は何を誓ったんだ? それは僕の信じた、信念のようなものじゃなかったか?

 痛い、何も痛くないのに、とても痛い。怖くて、不安で、大声で叫びたくなる。僕は、僕自身が、怖く感じる。僕は、この世界にいたら、きっと殺されてしまう。どんどん欠け落ちていく。それを拾い集めることが出来ない。

 身体なんて、どうでもいい。そんなことをして―――ことはない。だから身体が殺されるのは、どうだっていい。

 だから、恐ろしいのは、なによりも怖いのはたった1つなんだ。

 この身体がバラバラに壊れることなんてよりも、それよりも速く、僕が、僕がいられるための、たった1つの心が壊れて、終わってしまうことが、耐えられない。

「―――嫌だ。嫌、だよ」

 こん な痛みに耐えられるはずがない。きっと何もかも判らなくなって、僕が信じた全てを、僕が得てきたもの全てを、僕が失ってきたもの全てを、僕が傷つけ壊してきたもの全てを、何もかも判らなくなってしまうのか。そんなことは許されないのに?

 判らなくなって、あの世界での全てが思い出せなくなるのか。いや、あの世界ってなんなんだ。

 怖い。その怖さから逃げ出したくなる。でも身体は動いてくれない。心が否定する。

 自分の声が聞こえた。暗く、重く、腹の底に響き渡るような声だった。

 ―――お前は、ここを何度も歩いてきたんだろう?

 パキリ、再び心が割れた。その痛みに、心が崩れ落ちそうに なる。

 ……僕の中にある、ここは正気の沙汰とは思えない。

 心が痛みに耐えかね、僕が壊れてしまったら、どうなるんだろう?

 いや、この痛みと恐怖はこの世界が有り続ける限り、ずっと続くはず。

 ここは僕を殺す、悪夢のような場所だ。それがわかってしまう。

 さっきの声とは別に、感情のある、生身のある声だった。これも、僕の声だ。

 ―――じゃあ、なんでそこまで判っていて、この世界を残していたんです?

 早く、無くしてしまえばいい。

 きっとそう思ったことは1度や2度ではないはず。そう思いながら今も、ここまで残した理由は1つしか 考えられない。

 この世界は僕にとって必要なものであり、使われる為に存在し続け、僕に託したんだ。僕は僕自身に追い詰められ、裁かれる。でも、何に裁かれるんだ?

「―――うるさい」

 今度は僕自身の言葉だ。ブチリ、と口の中で嫌な音がした。

 自分を傷つけ、多くのものを捨てて走ってきた。

 それでも絶対に譲れないモノがあり、この世界はその為に在り続けてくれた。


[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ