9話 一夏戦
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だからこそ、試合を止めることは只々心苦しかった。
「そうね、でも鬼一くんにはまだ次があるわ。今、ここで身体を壊してしまえば彼のためにもならない」
だけど、と言葉を続ける。
「私はIS学園の長なのよ。私には壊れそうな生徒を止める義務と責任がある。そして、あの子の戦いも痛いほど理解しているわ。だけどあの子に恨まれたとしても、私はあの子が壊れるのを黙って眺めていられるほど、人間辞めていないわ」
「……っ!」
その凄みさえ感じられるほどの発言に、セシリアは沈黙する。そして、絶望的な悲しさを宿して呟く。
「……鬼一さん、申し訳ありません。貴方の戦いを汚してしまいます」
誰よりも近くで鬼一を見てきた楯無の気持ちは理解できる。そんな楯無が鬼一の戦いを汚してでも止める、というのはどれだけの葛藤があったのか。そして鬼一の戦いを身を持って知っているからこそ、自分に止める権利はないこともセシリアは理解している。
――――――――――――
地面に両膝をつけた鬼一に悪魔の声が囁きかける。
もう逃げちまえ、と。
もう諦めてしまえ、と。
もう戦うな、と。
脳に酸素が回っていないのか思考が安定しない、常にブレているのような違和感。意識を強く保たねば今考えていたことが1秒後には忘れていそうな感じ。呼吸が強く荒れた状態が続いているせいか肺と心臓が今すぐにも爆発しそうだった。呼吸のせいか喉が痛く、唾液さえも止まらなかった。
ポタ、ポタ、と唇から顎へ、そして地面へ唾液が流れ落ちていく。
両手足の痙攣はより一層強くなり、身体が今すぐに休みたいと信号を上げ続ける。ここまで精神が肉体を支えていたがそれももう限界だった。満足に立ち上がることもできない。
体力と精神がピークを迎え、集中を維持することさえ困難な状況。それでも鬼一は諦めない。みっともなくとも勝負に食らいつく。その先に勝利があることを信じて。
いつだって、そうだった。
何度も何度も似たような状況はあった。負けそうになり、挫けそうになり、立ち上がれなくなりそうになった。
それでも、自分の心が否定し続けるのだ。
まだやれる、と。
まだ諦めるな、と。
まだ戦える、と。
鬼一の中に熱風が吹き荒れる。静かに鬼一は両目を開く。
其処に見えていたのは、かつての、自分が全てを賭けて挑んだあの世界。
地面を揺るがすほどの大歓声。
肌を焦がすようなスポットライトの熱。
身体を震わすほどの人々の情熱。
対戦相手のプレッシャー。
そこに立つまでにどれだけのものを切り捨ててきたのか。どれだけのものを守れたのか。今でも鬼一はそれは分からない。だけど、決して
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